オープンイノベーション7類型|ひとくくりにしてはならない7つの取り組みパターン
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オープンイノベーション7類型とは、他社との協業を伴う新規事業活動を、起点となる課題・コア技術の所在・製造販売の主体・顧客接点の4軸で分類した整理である。ベンチャークライアント、自社システム外販、販売代理店IN、ライセンスイン、販売代理店OUT、ライセンスアウト、新規事業モデルの7つに分かれる。それぞれ取り組み方も、主体となる部門も、成功条件も異なる。麻生要一『新規事業の経営論』第6章で体系化された。
オープンイノベーションは、ひとくくりにできない
「オープンイノベーション推進部を立ち上げました」。この10年、私が伴走してきた大企業の現場で、何度この言葉を聞いてきたかわからない。そして、そのうちのかなりの割合が、設立から2〜3年で機能不全に陥る。
理由は能力の不足ではない。担当者の意欲が足りないわけでもない。原因は、もっと構造的なところにある。
「オープンイノベーション」とひとくくりにできる活動など、存在しない。 それぞれの取り組みパターンごとに、起点も、主体も、進め方も、契約構造も、必要な人材も、まったく異なる。にもかかわらず、一つの部署に「オープンイノベーション」という看板を掲げて、7つの異なる活動を同時に担わせようとする。これが機能しない構造の根本にある。
この整理を、私は2025年に上梓した書籍『新規事業の経営論』(麻生要一、ダイヤモンド社)第6章で、7つの類型として体系化した。本記事では、その7類型を順に解き、それぞれが別の競技であることを示す。そして最後に、7類型すべてに共通する、最も重要な要諦に到達する。
なぜ7類型に整理する必要があるのか
書籍経営論第6章で私が立てた問題意識はこうだ。
オープンイノベーションといっても、活動の特性が大きく変わってくる。「オープンイノベーション」とひとくくりにできる活動があるのではなく、それぞれの取り組みパターンごとに気をつけるべき点や進めるポイントが異なる。
ヘンリー・チェスブロウが2003年に提唱した「オープンイノベーション」という概念は、社内外の知識を意図的に流入・流出させ、自社のイノベーションを加速する考え方として広く受け入れられてきた。しかし、現場の実装に入った瞬間、この抽象度では役に立たない。
ベンチャー企業の製品を自社の業務に取り込む活動と、自社の特許技術を他社にライセンスする活動は、まったく別の競技だ。前者は購買プロセスの高度化に近く、後者はR&D投資の収益化に近い。両者を「オープンイノベーション」という一言で括ること自体に、設計上の無理がある。
私が現場で繰り返し見てきたのは、この区別がつかないまま、推進部が動き出すケースだった。スタートアップとの面談、社内提案制度、ライセンス交渉、代理店契約、共同事業開発。これらをすべて同じチームで、同じKPIで、同じ稟議で進めようとすれば、当然どれも中途半端になる。
7類型に分けて整理すれば、4つの点が明確に分かれる。
- 起点となる課題は何か
- 解決のためのコア技術・製品は誰が持っているか
- 製造・量産する主体は誰か
- 販売する主体は誰か、対顧客接点は誰が持つか
この4点が異なれば、取り組み方が異なる。それが7類型を立てる理由である。
4軸での7類型整理
書籍経営論第6章の図表6-2を踏まえ、7類型を4軸で俯瞰する。
| # | 類型 | 起点となる課題 | コア技術・製品 | 製造・販売 | 対顧客接点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ベンチャークライアント | 自社の業務課題 | 外部パートナー | 外部パートナー | 自社 |
| 2 | 自社システム外販 | 自社の業務課題 | 自社 | 自社 | 自社 |
| 3 | 販売代理店IN | 自社の既存顧客の課題 | 外部パートナー | 外部パートナー | 自社 |
| 4 | ライセンスイン | 自社の既存顧客の課題 | 外部パートナー | 自社 | 自社 |
| 5 | 販売代理店OUT | 自社事業開発の課題 | 自社 | 自社 | 外部パートナー |
| 6 | ライセンスアウト | 外部パートナーの顧客の課題 | 自社 | 外部パートナー | 外部パートナー |
| 7 | 新規事業モデル | まったく新しい顧客課題 | 自社の何かを使い他を外部で補う | どこかに | どこかに |
この表が示しているのは、7類型のあいだに「軽い違い」しかないわけではないということだ。起点となる課題が「自社の業務」なのか「自社の顧客」なのか「自社の事業」なのか「外部の顧客」なのか「まったく新しい市場」なのか、で活動の出発点がまるごと違う。
INとOUTの区別も決定的に重要だ。INは「他社の何かを自社に取り込む」方向、OUTは「自社の何かを外に出す」方向。同じ「販売代理店」「ライセンス」という言葉が使われていても、INとOUTでは扱う対象も、契約構造も、関わる部門もまったく異なる。
以下、7類型を順に解いていく。
① ベンチャークライアントモデル
定義: 自社の業務課題を、スタートアップの技術で解決するモデル。書籍では「いわゆる購買プロセスを進化させたもの」と位置付けた。
書籍が示した事例: BMWの「BMW Startup Garage」。専任部署を設け、スタートアップ製品を「部品として」自社製品に組み込む活動を制度化した取り組みである。
このモデルの本質は、スタートアップを「投資先」や「協業先」として扱うのではなく、「サプライヤー」として扱う点にある。すごい技術、すごいプロダクト、を起点に案件を組み立てるのではなく、自社の現場が抱えている具体的な業務課題を起点に、その解決のために最適なスタートアップを探す。
私が現場で繰り返し見てきた失敗は、「面白いスタートアップを見つけたので、社内でなんとか使えないか」というロジックで案件を起こすケースだった。これは順序が逆である。起点は必ず、自社の現場の課題側にある。
ベンチャークライアントモデルが機能するための条件は、書籍では3つに整理した。
- 数百万円規模の予算を持つ現場担当者が、迅速に発注できる体制
- 「投資・買収」ではなく「購買」としての社内合意形成
- CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やM&Aと併存させ、混同しない設計
主体となる部門は、課題を抱える既存事業の現場である。経営企画やCVC部門が中央集権的に進めると、現場の課題感とずれてしまう。
② 自社システム外販モデル
定義: 自社の業務課題を解決するために開発したシステムを、社外にも展開し販売するオープンイノベーション活動。
書籍が示した事例: サイボウズの kintone。もともとは社内業務改善目的で自社開発されたシステムが、現在では多くの企業が業務アプリを構築できる SaaS サービスとして広く利用されるに至った。
このモデルは、ベンチャークライアントモデルと「起点が自社の業務課題である」点では共通する。しかし、コア技術・製品が自社内にある点、製造・販売・顧客接点すべてを自社が担う点で、まったく異なる構造を持つ。
外販を本気で目指すなら、書籍で私が強調したのは次の点だ。
外販を前提にしたアーキテクチャでつくる。自社業務に最適化しすぎたシステムは、他社では使えない。「うちの会社特有の業務フローに合わせて開発した」システムは、他社にとってはむしろ使いにくい代物になる。
外販後の運用責任は重い。ユーザーサポート、契約管理、SLA、障害対応、料金請求、解約処理。社内利用では多少の不整備が許される領域でも、外販時には許されない。
この覚悟がないまま「うちのシステム、外販したら売れるんじゃないか」と動き出すと、ほぼ確実に失敗する。主体となる部門は、最初は既存事業全般で着想が生まれるが、外販を本格化させる段階では新規事業部門に移行させるのが原則である。
③ 販売代理店INモデル
定義: 他社の製品やサービスを、自社の顧客に対して代理販売するオープンイノベーション活動。
書籍が示した事例: 大塚商会のような ITディストリビューター。自社で IT製品を開発していなくても、数多くの外部ベンダー製品を取り扱い、自社の営業網を通じて中小企業や地方企業に提供する事業モデルである。
INとついていることに注意してほしい。これは「他社製品を自社が取り扱う」方向の活動だ。後述の販売代理店OUTモデルとは、まったく異なる。
このモデルが機能するかどうかを決めるのは、極論すれば一点に尽きる。「自社の営業現場が、その製品を本気で売る気になるか」だ。
代理販売は構造的に「間接事業」になりやすい。自社で開発した製品ではないため、利益率が薄い。営業担当者にとっては、自社製品を売るより手間が増えるのに、報酬は少ない。だから本気で動かない。
書籍では、この構造を踏まえて、選定基準を3つに整理した。
- 既存製品を売る営業現場で「手触り感のある課題」に対する製品か
- 自社事業の強化に合致する製品か
- インセンティブ設計が、営業現場が本気で動く水準まで届いているか
主体となる部門は、既存事業の営業部門である。新規事業部門が単独で代理店契約を結んでも、営業現場が動かなければ売れない。
④ ライセンスインモデル
定義: 外部企業が保有する製品や技術を、自社ブランドや自社製品として取り込むオープンイノベーション活動。
書籍が示した事例: パナソニックの調理家電事業が、欧州の調理家電メーカーから加熱制御ソフトウェアをライセンスインし、自社のオーブンレンジに搭載することで高付加価値化を実現した例である。
販売代理店INモデルとの違いは、「他社の製品をそのまま売る」のか「他社の技術を自社製品に組み込んで売る」のかである。前者はブランドが外部のまま、後者はブランドが自社になる。
ライセンスインで気をつけるべき点は、私が経験してきた中で3つある。
ライセンス条件の精査である。独占か非独占か、地域はどこまでか、用途制限はあるか、改変権はあるか、サブライセンス権はあるか。これらが曖昧なまま契約を結ぶと、後から自社事業の足かせになる。
完全なブラックボックス化を避けることである。ライセンスした技術の中身が一切わからないまま自社製品に組み込むと、不具合発生時の対応もできず、改良の方向性も決められない。最低限の技術理解は、自社内に持っておく。
判断起点を「技術」ではなく「顧客課題」に置くことである。「面白い技術が手に入った」を起点にすると、自社製品にとって最適なライセンスにはならない。あくまで顧客課題が起点である。
主体となる部門は、既存事業の開発部門である。
⑤ 販売代理店OUTモデル
定義: 自社で開発・製造した製品やサービスを、外部の販売パートナーを通じて提供するオープンイノベーション活動。
書籍が示した事例: リコーが業務用プリンターやドキュメント管理ソリューションを、国内外の地域販売代理店ネットワークを通じて提供する例。ヤマハ発動機がバイクやマリン製品を海外の販売代理店経由で展開する例である。
販売代理店INモデルが「他社製品を自社が売る」だったのに対し、こちらは「自社製品を他社に売ってもらう」方向だ。INとOUTで、起点も主体も契約構造も完全に裏返る。
このモデルの成否を決めるのは、本気で売ってくれる販売パートナーを選べるかどうかだ。書籍では、その見極めポイントを3つに整理した。
販売パートナーの製品理解度。表面的に「取り扱います」と言ってくれる代理店は多い。しかし、自社製品の競合製品をすでに扱っていたり、現場の温度感がぬるかったりすると、結局売れない。
インセンティブ設計の精度。マージン率だけでなく、達成ボーナス、エクスクルーシブ条件、トレーニング支援、共同マーケティング予算など、パートナーが「本気で売ったほうが得だ」と判断できる構造を設計する。
サポート体制の責任分界。一次対応はパートナー、二次対応は自社、というような責任の所在を明確にしておかないと、顧客トラブル発生時に泥沼化する。
主体となる部門は、既存事業の営業部門である。
⑥ ライセンスアウトモデル
定義: 自社や組織が保有する技術や製品の知的財産権を他社に使用許諾し、収益を得るオープンイノベーション活動。
書籍が示した事例: パイオニアの音声認識エンジン・車載UI技術の他社メーカーへのライセンスアウト。京都大学のがん免疫療法に関する特許技術のライセンスアウト。大阪大学発の再生医療関連ベンチャー。
このモデルの本質は、自社の事業として製品を売るのではなく、自社のR&D投資を「知財収益」として回収する点にある。製造も販売も顧客接点も、すべて外部パートナーが担う。自社が出すのは技術と契約条件だけだ。
ライセンスアウトを設計する際の論点は、書籍では3つに整理した。
ライセンス範囲の精緻な設計である。対象用途は何か、使用地域はどこまでか、期間は何年か、独占か非独占か。これらが曖昧だと、後から想定外の用途で使われたり、複数のライセンス先が競合したりする。
収益構造の最適化である。固定費型(一括ライセンスフィー)か、従量課金型(売上の何パーセント)か、ミニマムギャランティ付きか。技術の成熟度、相手の事業規模、市場の不確実性に応じて設計を変える。
自社製品とのカニバリゼーション防止である。ライセンスアウト先が自社の競合になってしまうと、本末転倒だ。地域・用途・チャネルでの棲み分けを契約で担保する。
主体となる部門は、既存事業のR&D部門である。知財部門との連携が極めて重要になる。
⑦ 新規事業モデル
定義: 既存の顧客課題でも、自社の既存資産でもない、まったく新しい市場やニーズに対して、ゼロから事業をつくるオープンイノベーション活動。
書籍では、このモデルについて「非常に難易度が高く、事例が豊富なわけではない」と率直に書いた。これは現場で偽らざる感覚だ。
書籍が示した事例: 物流会社と音楽レーベルが協業し、地方の過疎地域に若者を呼び込む「観光体験+移動式フェス」プラットフォームを共同開発する例。両社にとって主戦場から離れた領域で、誰も開拓してこなかった市場を創出する取り組みだ。
このモデルが他の6類型と決定的に異なるのは、起点となる課題が「自社の業務」でも「自社の顧客」でも「自社の事業」でもない点である。「まったく新しい顧客課題」がゼロから設定され、それを2社(あるいは複数社)の組み合わせで解きにいく。
私が現場で見てきた中で、新規事業モデルを成立させるためには、4つの条件がそろう必要があると考えている。
なぜ2社でやるのか、組んで取り組む理由を明確化する。1社では絶対に解けないのか。1社でやれるなら1社でやったほうが速い。組む理由は、相手にしかない資産があるからだ。
「パートナー企業」ではなく「同じチームの一員」として機能するワンチーム体制を作る。月次の連絡会議では足りない。日次で動く現場の共創チームが必要だ。
共創チームへの意思決定権限の委譲。両社の本社に都度伺いを立てる体制では、スピードが出ない。一定範囲の意思決定権限を、共創チームに渡しておく。
事前に提携契約の骨組みを握る。事業がスケールした後の利益配分、ブランドの主張、知的財産の帰属。これを後回しにすると、成功した瞬間に揉める。
主体となる部門は、新規事業部門である。既存事業の延長線ではないため、既存事業の論理と評価基準では成立しない。
取り組み主体となる部門もモデルごとに異なる
ここまで7類型を解いてきて、もう一つ重要な構造が見えてくる。主体となる部門が、類型ごとに異なる。
書籍経営論第6章の図表6-3を踏まえると、こうなる。
| 類型 | 主体となる部門 |
|---|---|
| 1. ベンチャークライアント | 課題を抱える既存事業の現場 |
| 2. 自社システム外販 | 既存事業全般 → 新規事業部門 |
| 3. 販売代理店IN | 既存事業の営業部門 |
| 4. ライセンスイン | 既存事業の開発部門 |
| 5. 販売代理店OUT | 既存事業の営業部門 |
| 6. ライセンスアウト | 既存事業のR&D部門 |
| 7. 新規事業モデル | 新規事業部門 |
7類型のうち、新規事業部門が主体となるのは2つだけだ。残り5類型は、既存事業のいずれかの部門が主体となる。
ここに、冒頭で述べた「オープンイノベーション推進部が機能不全に陥る」構造の正体がある。推進部という一つの部署が、7類型すべてを担おうとしても、本来の主体部門と乖離してしまう。ベンチャークライアントは既存事業の現場が主体であるべきところを、推進部が代行する。代行された案件は、既存事業の現場から見れば「自分ごと」にならない。結果、導入されても使われない。
正しい設計は、7類型ごとに最適な主体部門に責任を持たせ、推進部はあくまで「横断的なノウハウ提供」「契約・知財支援」「外部ネットワーク開拓」の機能に徹することだ。
7類型で迷う場合の判断ガイド
自社が取り組むべきオープンイノベーションが7類型のどれに当たるか、判断に迷う場合のガイドを示しておく。書籍に明示はないが、現場で機能する整理として加える。
自社の何が起点になるかで分かれる。
- 自社の業務課題が起点なら、1(ベンチャークライアント)か2(自社システム外販)
- 自社の既存顧客の課題が起点なら、3(販売代理店IN)か4(ライセンスイン)
- 自社の技術や製品が起点なら、5(販売代理店OUT)か6(ライセンスアウト)
- まったく新しい領域が起点なら、7(新規事業モデル)
自社が販売の主体か、外部が販売の主体かで分かれる。
- 自社が販売主体:1、2、3、4
- 外部が販売主体:5、6
- 新規開拓:7
そして、もし自社の能力に迷うなら、判断は明快だ。まず「自社単体での新規事業能力」を磨くことから始める。 これが、ここから先に書く、書籍の核心メッセージである。
最も重要なオープンイノベーションの要諦
ここまで7類型を解いてきた。しかし、書籍経営論第6章で私が最も伝えたかったのは、実はこの整理そのものではない。7類型すべてに共通する、ある一つの要諦である。
それはこうだ。
パターンによらない、最も重要なオープンイノベーションの要諦:自社単体で新規事業がつくれる能力を持っていることが、オープンイノベーションの前提だ。
オープンイノベーションに取り組む前に、自社内の新規事業開発プログラムを作り込み、新規事業の人的資本を強化すべきである。それができていない企業が、一足飛びにオープンイノベーションをやっても、決してうまくいかない。
理由は、私が10年以上、企業のオープンイノベーション推進部門の伴走を行ってきた経験から、はっきりと言える。
オープンイノベーションの主役は、あくまで自社の社員である。外部パートナー企業が「やってくれる」わけではない。スタートアップが、大学が、代理店が、ライセンス先が、新規事業を立ち上げてくれるわけではない。彼らはそれぞれの事業のために動いている。
外部パートナーは、こちらの新規事業に資するかどうかを目的として動いてくれているわけではない。自分たちの新規事業のために、こちらと共創してくれているにすぎない。利害は完全には一致しない。むしろ、ある局面では利益相反する。
利益相反する相手と、同じ目線・同じレベルで交渉し、同じ熱量で事業をつくれるのは、新規事業を立ち上げた経験がある社員のみである。それ以外の社員が交渉に立つと、外部パートナーの論理に飲み込まれるか、あるいは過剰に警戒して契約を硬直化させるか、どちらかになる。
私が書籍で繰り返し指摘したのは、多くの大企業で「社員向け新規事業開発プログラム」と「オープンイノベーション・プログラム」がまったく別部門で運営されているケースがあるという問題だ。
これは構造的に間違っている。
最も正しく機能するオープンイノベーション・プログラムの形態は、社員向けの新規事業開発プログラムの上に乗っかる形だ。社員が新規事業を立ち上げる経験を積み、その能力を持った社員が、必要に応じて外部パートナーと組む。これが順序である。
順序を逆にしてはならない。「自社単体では新規事業がつくれないから、外部と組もう」という発想で始めたオープンイノベーションは、ほぼ確実に失敗する。なぜなら、自社単体でつくれない企業は、外部パートナーを見極める目も、交渉する力も、共創を主導する経験も持っていないからだ。
オープンイノベーション7類型のどれに取り組むにせよ、この前提は変わらない。
AI時代における7類型の含意
最後に、書籍は2025年9月時点までの内容で書かれている。本記事を書いている2026年5月の時点で、AI時代の論点として加えておきたい視点を、慎重に記しておく。
AI時代に入って、自社が保有する技術・データ・現場知が、新規事業の独自性の源泉になりやすい構造が強まっている。これは7類型のうち、自社起点の類型、つまり自社システム外販モデルやライセンスアウトモデルの重要性を高める方向に働く。汎用AIだけでは生み出せない、自社固有の知が、AIと結びついた瞬間に独自の事業価値を生むからだ。
同時に、外部の技術やプロダクトを自社に取り込むスピードも、AIによって格段に上がっている。ベンチャークライアントモデルやライセンスインモデルの実装サイクルが短くなり、より速く、より小さく試せるようになった。
ただし、これは「7類型の枠組みが変わる」話ではない。「各類型の実装スピードが変わる」話である。7類型の構造そのものは、AI時代でも変わらない。起点が違い、主体が違い、契約構造が違う、という整理は普遍的に有効だ。
そして、書籍の要諦である「自社単体での新規事業能力を磨くこと」は、AI時代こそ強化される。AIが多くの作業を代替する時代になればなるほど、人間が立ち上げる新規事業の価値、その経験を持つ社員の希少性は、相対的に高くなる。AIで効率化された分の時間と集中力を、新規事業を立ち上げる経験に振り向けられる企業と、そうでない企業の差は、これから加速度的に開いていく。
「AIは効率化から、収益の創造へ。」これが新しい時代の文脈だ。その新しい文脈の中で、オープンイノベーションをやろうとするなら、まず自社の中で、AIと共に新規事業を立ち上げられる社員を育てる。順序はやはり同じだ。
よくある質問
Q1. オープンイノベーション7類型のすべてに、一つの推進部署で取り組むことは可能ですか?
可能ではあるが、推奨しません。7類型は、起点となる課題も、主体となる部門も、必要な人材も、契約構造も大きく異なります。一つの部署で7類型すべてを担うと、どれも中途半端になりがちです。推進部署はあくまで横断的なノウハウ提供・契約支援・外部ネットワーク開拓に徹し、各類型の実務は本来の主体部門に持たせるのが、書籍が示す原則です。
Q2. ベンチャークライアントモデルとCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は何が違いますか?
目的と関係性が違います。ベンチャークライアントモデルは、自社の業務課題を解決するためにスタートアップ製品を「購買」する活動で、関係性はサプライヤーと顧客です。CVCは、投資リターンや戦略的シナジーを目的にスタートアップに「出資」する活動で、関係性は投資家と投資先です。両者は併存可能ですが、混同すると現場が混乱します。書籍では「両者を別物として併存させる設計」を推奨しています。
Q3. ライセンスインモデルと販売代理店INモデルの違いは何ですか?
ブランドが自社になるか、外部のままかが決定的に違います。ライセンスインは、他社の技術を自社製品に組み込み、自社ブランドで販売します。販売代理店INは、他社の製品をそのまま、他社のブランドのまま、自社の販売網で売ります。前者は既存事業の開発部門が主体、後者は既存事業の営業部門が主体になります。
Q4. なぜ「自社単体での新規事業能力」がオープンイノベーションの前提なのですか?
外部パートナーは、こちらの新規事業に資することを目的として動いてくれているわけではないからです。彼らは自分たちの事業のために動いており、利害は完全には一致しません。利益相反する相手と同じ目線で交渉し、同じ熱量で事業をつくれるのは、新規事業を立ち上げた経験を持つ社員のみです。その経験がない社員が交渉に立つと、外部の論理に飲み込まれるか、契約を硬直化させるか、どちらかになります。
Q5. オープンイノベーション7類型のうち、最も難易度が高いのはどれですか?
書籍では明確に、第7類型である新規事業モデルが「非常に難易度が高く、事例が豊富なわけではない」と書きました。起点が「自社の業務」でも「自社の顧客」でも「自社の事業」でもなく、まったく新しい顧客課題をゼロから設定する必要があるためです。2社が同じチームとして機能するワンチーム体制、共創チームへの意思決定権限の委譲、事前の提携契約の骨組み合意など、成立条件が他の類型より格段に多くなります。
関連概念
オープンイノベーション7類型は、新規事業を組織として推進する経営論の一部です。AI時代における新規事業のあり方については、書籍『AI収益進化論』(収益進化)が体系化しています。
新規事業の100倍化を組織で達成する人材像については、AXアーキテクトの整理を参照してください。
AI時代の新規事業設計の核心であるAI Orchestration、および新規事業の入場基準としての100倍化の整理も併せて参照されることをお勧めします。
著者: 麻生要一(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO/CAXO)
著作: 『新規事業の実践論』(NewsPicksパブリッシング、2019年)、『新規事業の経営論』(ダイヤモンド社、2025年)、『AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造』(株式会社Ambitions、2026年5月)
最終更新: 2026年5月9日
編集: AX for Revenue Institute 編集部
出典
- 麻生要一「新規事業の実践論」(2019)NewsPicksパブリッシング / Amazon
- 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)「AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造」(2026)https://axfr.ai/book
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