メインコンテンツへスキップ
REBUTTALPillar 2 ─ なぜAIで売上が上がらないのか

AI事業開発を社内エースに任せてはいけない理由|AXアーキテクトという別人材像

Published
Reading
12 min
  • AI事業開発 担当者 人選
  • AI事業開発 エース
  • AI事業 任せる人材
  • AI新規事業 担当者
  • AI事業開発 抜擢
  • AI事業 リーダー
  • AI事業開発 失敗 人材
  • 新規事業 エース 抜擢
  • AI事業 適任者

AI事業開発は社内エースに任せれば成功する、という通説は構造的に成立しない。「優秀な人ほど新規事業で失敗する」構造は、AI事業開発でも同様に作用する。AI事業開発に必要なのは、既存事業のエースとは異なる「AXアーキテクト(BA能力×AI能力)」という別人材像である。

AIで売上を上げる事業を立ち上げる。そのとき、多くの企業がまず行うのは「社内のエースを抜擢する」という人選である。執行役員クラスの事業責任者、社内No.1の部長、業績を牽引してきたミドルマネージャー。優秀な人材に任せれば、AI事業開発も動き出すはずだ──。

この前提は、AI事業開発が動かない理由のひとつになっている。「優秀な人ほど新規事業で失敗する」という、新規事業領域では古くから知られた構造論が、AI事業開発でもそのまま作用している。AIは効率化から、収益の創造へ。その移行を担う人材は、これまで既存事業を磨き上げてきた人材とは別の能力カテゴリにある。本記事は、その構造的理由と、AI事業開発に必要な別人材像「AXアーキテクト」を整理する。

「社内エースを抜擢すれば AI事業開発は進む」という通説の構造的問題

業界の標準的な人選プロセスは、「優秀な部長を抜擢する」「執行役員に新規事業を任せる」「社内No.1の事業責任者を異動させる」というものだ。AI事業開発も例外ではない。むしろAIという経営テーマの重要性が高いからこそ、より優秀な人材を充てるべきだ、という発想が強く働く。

しかし現場では、エースを抜擢したのに事業が動かない、というケースが多発している。MIT Project NANDA の調査では、企業の生成AI投資累計300〜400億ドル規模に対して、組織の95%が測定可能なP&Lリターンを得られていない(Project NANDA, MIT, 2025)。McKinsey State of AI 2025 でも、AI採用率は88%に達したが、業績にインパクトを実感している企業は約6%にとどまる(McKinsey, 2025)。

この乖離は、個別人材の能力問題ではない。「優秀な人ほど新規事業で失敗する」という、書籍『新規事業の経営論』が体系化した構造論が、AI事業開発でも同様に作用している。既存事業のエースと、新規事業を立ち上げる人材は、能力カテゴリそのものが異なる。AI事業開発でこの違いを無視すると、エースを抜擢しても AI導入の3段階 の段階3、つまり「推進中だが売上は動かない」状態に到達してしまう。

エースは既存事業で重要な役割を果たしている。問題は能力の優劣ではなく、適材適所が成立していない構造にある。

「優秀な人ほど新規事業で失敗する」── 構造的な4つの理由

理由①|既存事業の成功体験が、新規事業の失敗要因になる

既存事業のエースは「規律」「効率化」「組織運営」で成果を出してきた人材である。決められたKPIを正確に追い、組織を整え、無駄を削ぎ落とす能力で評価されてきた。これは既存事業の維持・拡大において不可欠な能力である。

一方、新規事業に必要な能力は「規律破り」「探索」「ゼロから作る力」である。まだ存在しない型を作る作業は、規律で測れない。既存事業の成功体験は、新規事業の意思決定の場面で「過去に成功した型」を呼び戻す方向に働き、探索の自由度を狭める。AI事業開発の文脈で言えば、エースは「効率化AIで成果を出す」方向には強いが、収益進化AIで まだ存在しない収益を作る 方向には踏み出しにくい。これは個人の問題ではなく、長年磨いてきた判断軸が、新規事業の判断軸とミスマッチを起こす構造的な現象である。

理由②|エースは「既存組織での評価」を失うリスクを取れない

エースは既存組織での評価・地位・人脈を持っている。それは長年の業績によって積み上げた、本人にとって失いがたい資産である。新規事業の失敗は、これらを失うリスクを伴う。

結果として、エースはリスクの高い決断を避け、無難な選択を続けるようになる。AI事業開発に必要なのは、90日サイクルで仮説検証を回し、間違っていたら次に進む、という AX for Revenue Loop の高速回転である。しかしエースは「90日で結論を出して、もし違っていたら社内での評価が下がる」というリスクを直感的に避ける。慎重に時間をかけ、社内での合意形成を丁寧に行い、結果としてサイクルが回らなくなる。これも能力ではなく、組織内での立ち位置に由来する構造的な行動パターンである。

理由③|エースは「既存組織のリソース獲得」に最適化されている

エースが優秀である理由のひとつは、既存組織内での予算獲得・人材獲得・経営層への説明能力に長けていることである。社内政治を読み、稟議を通し、関係部門を動かす。この能力は既存事業の運営において極めて重要である。

しかし、新規事業(特にAI事業開発)に必要なのは「組織外の顧客・市場・技術との対話」である。まだ存在しない収益を作るには、組織外にある PI(Primal Intelligence) を掘り起こす作業が中心になる。エースが新規事業に異動しても、これまで磨いてきた組織内の論理で動き続けてしまい、組織外との対話に時間と熱量を割けない。社内会議の準備に追われ、現場の生情報(Field Intelligence)に降りていく余裕がなくなる、という構図がしばしば現れる。

理由④|エースには「Will(やりたいこと)」がない場合が多い

エースは「組織に求められる成果」を出すことに最適化されている。求められた目標を達成する、上司の期待に応える、組織の戦略を実行する。これらの能力でエースになった人材は、Will(やりたいこと)を問われる経験を、長くしてこなかった場合が多い。

新規事業に必要なのは、人事や上司の指示ではなく、本人の Will である。書籍『新規事業の経営論』が示した「Will 形成の手順」は、新規事業を立ち上げる人材がまず通るべきプロセスとして整理されている。AI事業開発も例外ではない。Will のない人材に新規事業を任せると、組織の指示を待つ姿勢が抜けず、自律的な判断が積み重ならない。エースは Will を「持っていない」のではなく、「問われたことがないため、形成プロセスを経ていない」ことが多い。これは個人の責任ではなく、人事制度と評価構造の帰結である。

AI事業開発に必要な「AXアーキテクト」という別人材像

AXアーキテクトとは何か

AXアーキテクト は、書籍『AI収益進化論』および AlphaDrive のホワイトペーパー WP-04「AXアーキテクトの、実装論。」で体系化された人材像である。BA能力(ステークホルダーを動かす力/ビジネスモデリング/環境理解)と、AI能力(AI Sprint / AI Orchestration / Full-Product Launch / PI Injection)を併せ持つ事業開発人材を指す。

重要なのは、AXアーキテクトは「既存事業のエース」の延長線上にいないということだ。既存事業のエースが持つ規律・効率化・組織運営の能力とは別の軸に立つ。新規事業を立ち上げる変革人材の能力に、AI能力を装着した人材像、と整理するのが正確である。

AXアーキテクト候補の3つの特性

特性①は、既存事業のエースではなく「ミドル層・若手の中の変革人材候補」である。書籍『新規事業の経営論』第8章の変革人材論で整理されている変革人材の特性は、エースと重なる部分もあるが、決定的に異なる部分がある。AlphaDrive が研究してきた変革人材4分類19項目のフレームワークは、ものごとのとらえ方/行動特性/関係性構築力/思考傾向の4分類で変革人材を可視化する。

特性②は、Will(やりたいこと)を持っている、または Will 形成プロセスを経られる人材であることだ。Will は事前に完成している必要はないが、形成プロセスに乗れる素地が必要になる。

特性③は、BA能力の素地があり、AI能力を装着できる人材であることである。BA能力はビジネスアーキテクト能力の略で、新規事業を構想・推進する基礎能力を指す。これに AI Sprint や AI OrchestrationPI Injection といった AI 時代固有の能力を装着することで、AXアーキテクトとして機能する。

AXアーキテクト候補をどう発掘するか

AXアーキテクト候補を発掘する方法は、全社員一律研修ではない。変革人材アセスメント(4分類19項目)を起点とした人材発掘プロセスが必要になる。

このプロセスは、AlphaDrive が整理してきた4要素循環構造(アセスメント → コミュニティ → アサインメント → コンピタンス)の起点として機能する。アセスメントで候補を発掘し、変革人材のコミュニティに接続し、実際のアサインメントを通じてコンピタンスを獲得していく。さらに AXアーキテクト育成の5段階モデル(発掘・研修・OJT・独立・メンター)に沿って育成する設計が現実的である。

エースを抜擢するという従来の人選プロセスではなく、変革人材アセスメントを年次プロセスに組み込み、継続的に候補を発掘・育成する設計が、AI事業開発を持続させる前提条件になる。

エースを「抜擢しない」という選択肢は組織にとってどう機能するか

エースは既存事業に残し、既存事業の業績維持・拡大を担い続けてもらう。これは「エースを冷遇する」のではなく、適材適所の組織設計である。

新規事業(AI事業開発)には、変革人材候補(ミドル層・若手)を抜擢する。既存事業と新規事業を、別の組織原理で並走させる構造である。エースは既存事業で組織の屋台骨を支え、新規事業は別の人材プールが担う。両者は対立せず、補完関係に立つ。

エースが新規事業に関わる道もある。AXアーキテクト育成の5段階モデルにおける「メンター層」として、変革人材候補を支援する役割である。エースが長年培ってきた経営判断、組織運営、社内調整の経験は、新規事業の現場では使えなくても、メンターとして候補者を支援する場面では決定的に重要になる。さらに CAXO(Chief AI Transformation Officer) のように、AI事業開発を経営層として支援する道もある。エースを抜擢しないことは、エースの役割をなくすことではない。エースに本来の役割を果たしてもらうための、組織設計の見直しである。

エース抜擢を回避するための3つの組織設計

設計①|変革人材アセスメントを年次プロセスに組み込む

全社員から変革人材候補を継続的に発掘する仕組みを、年次プロセスに組み込む。これは人事評価とは別の軸で、変革人材4分類19項目に基づいて候補を可視化する作業である。

エース抜擢の前に「アセスメント結果を見る」ステップを置く。AI事業開発の責任者を選ぶ際、まず人事評価上位者を見るのではなく、変革人材アセスメントの結果を見る。順序を入れ替えるだけで、人選の質が変わる。

設計②|AI事業開発組織は「既存事業から独立した組織原理」で運営する

既存事業の評価制度・予算サイクル・意思決定プロセスを、AI事業開発組織に持ち込まない。既存事業の評価制度は四半期業績を見るが、AI事業開発は90日サイクルでの仮説検証を見る。既存事業の予算サイクルは年次計画に縛られるが、AI事業開発は仮説の更新に応じて柔軟に組み替える必要がある。

これは並走戦略・AX Dejima(出島)と呼ばれる組織設計に近い。既存組織の制度を維持したまま、新規事業組織は別ルールで動かす。本体を守りながら、攻めの層を別ルールで動かす場として、AI事業開発組織を設計する(麻生要一『AI収益進化論』第10章)。

設計③|AXアーキテクト育成プログラムを長期投資として位置付ける

AXアーキテクトは即戦力ではない。3〜5年スパンで育成するプログラムとして位置付ける必要がある。BA能力の習得に1〜2年、AI能力の装着に1〜2年、実際の事業立ち上げ経験に1〜2年。合計3〜5年の育成期間を、経営層が長期投資として承認することが前提条件になる。

このコミットメントは、CAXO(Chief AI Transformation Officer)の役割である。短期的な業績圧力に屈せず、AXアーキテクト人材プールを組織の中長期資産として育てる経営判断は、経営層にしか下せない。AI事業開発の人選問題は、最終的に経営層の長期投資判断の問題に行き着く。

よくある質問

Q1:エースを完全に新規事業から外すべきか?

外す必要はない。エースは既存事業の維持・拡大という重要な役割を果たしており、新規事業から外すことが目的ではない。重要なのは、AI事業開発の責任者ポジションに、変革人材4分類19項目のアセスメントを経ずに自動的にエースを充てるという従来のプロセスを見直すことである。エースは新規事業を支援する経営層、メンター、CAXO として関わる道もある。役割を再設計するという発想が起点になる。

Q2:AXアーキテクト候補は若手だけか? ミドル層も含まれるのか?

ミドル層も含まれる。むしろミドル層の中の変革人材候補が、AXアーキテクトのコア層になることが多い。年齢ではなく、変革人材4分類19項目の特性に該当するかどうかが判断軸である。20代でも該当する場合があり、40代・50代でも該当する場合がある。変革人材アセスメントは年齢層を問わず全社員に実施する設計が望ましい。ただし若手の方がエース化していない分、変革人材としての特性が発見されやすい傾向はある。

Q3:AXアーキテクト候補を社内で発掘できない場合、外部から採用するしかないのか?

社内で発掘できないと判断するのは、変革人材アセスメントを実施してからである。多くの企業では、エース層しか可視化されていないため「社内に該当者がいない」と感じやすい。アセスメントを実施すると、組織図の主要ポジションには現れない変革人材候補が発見されることが多い。外部採用は、社内発掘プロセスを経たうえで補完的に判断する選択肢である。社内人材プールの可視化を先に行うことが、原則として推奨される。

Q4:エースが「自分が新規事業をやりたい」と言ってきた場合はどうするか?

エースの Will として表明された場合、Will 形成プロセスを経たうえで判断することが現実的である。Will は「やりたい」という表明だけで成立するものではなく、形成プロセスを経て確認される。書籍『新規事業の経営論』が示した Will 形成の手順を、エース本人にも経てもらうことで、本物の Will なのか、組織内での新しい役割を求めているだけなのかが見えてくる。Will 形成プロセスを経ても新規事業への意志が強ければ、変革人材アセスメントの結果と照らし合わせて判断する。

Q5:AI事業開発の責任者(CAXO)は、社内エースが務めるべきか?

CAXO(Chief AI Transformation Officer)はエースが務めるのが現実的な場合が多い。CAXO は新規事業の現場責任者ではなく、AI事業開発を経営層として推進する役割であり、組織内での影響力・経営判断・長期コミットメントが求められる。これらはエースの能力と整合する。重要なのは、CAXO は AI事業開発の現場リーダー(AXアーキテクト)とは別ポジションであるということだ。CAXO がエース、AXアーキテクトが変革人材候補、という役割分担で組織が機能する。

関連する AX for Revenue の概念

書籍『AI収益進化論』(麻生要一、株式会社Ambitions、2026年5月)および書籍『新規事業の経営論』(麻生要一、東洋経済新報社、2025)は、本記事の理論的基盤を提供している。AXアーキテクトという別人材像と、その発掘・育成プロセスを自社で実装するための起点は、既存の人事評価ではなく、変革人材アセスメントの導入にある。自社のAI事業開発の人選が、既存事業のエース抜擢に偏っていないか。変革人材アセスメントを起点にした人選プロセスが整っているか。この2点を問うことが、AI事業開発を 段階3 の停滞から先に進める起点になる。


発行: 株式会社アルファドライブ/AX for Revenue Institute

References

出典

  1. 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造(2026)https://axfr.ai/book
  2. BCG / BCG XFrom Potential to Profit: Closing the AI Impact Gap(2025)https://www.bcg.com/publications/2025/closing-the-ai-impact-gap
  3. McKinsey & CompanyThe state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation(2025)https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai
  4. Project NANDA, MITThe GenAI Divide: State of AI in Business 2025(2025)https://mlq.ai/media/quarterly_decks/v0.1_State_of_AI_in_Business_2025_Report.pdf
Related