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「問いを立てる力」はAI研修では育たない|PI(Primal Intelligence)発掘という別アプローチ

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「問いを立てる力」をAI研修で育てる、という通説は構造的に成立しない場合がある。書籍『AI収益進化論』が示した「PI(Primal Intelligence)= FI(Field Intelligence・現場知)+ CI(Crazy Intelligence・狂気の知性)」は、人にしか持ち得ない原始的知性であり、研修で教えられるスキルとは別カテゴリの能力である。PI発掘という別アプローチが、AI時代の人材像の中核を構築する。

AIは効率化から、収益の創造へ。この移行が起き始めた2026年、企業の人材育成現場で繰り返されている問いがある。「AI時代に必要なのは、答えを出す力ではなく、問いを立てる力だ」。この認識自体は正しい。しかし、その「問いを立てる力」をAI研修・批判的思考研修・仮説構築研修で育てよう、という設計には構造的な限界がある。本記事は、書籍『AI収益進化論』が示した PI(Primal Intelligence) という概念を起点に、「問いを立てる力」を構築する別アプローチを整理する。

「問いを立てる力はAI研修で育てられる」という通説の構造的問題

AI時代の人材育成の現場では、「問いを立てる力」を育てるための打ち手として、批判的思考研修、仮説構築研修、ロジカルシンキング研修、デザインシンキング研修などが広く採用されている。これらの研修は、AI時代に必要な能力の前提条件として有効である。論理的に思考を組み立てる訓練、既存情報を構造化する訓練、複数の仮説を立てて検証する訓練は、人材の土台として欠かせない。

問題は、こうした研修だけで「問いを立てる力」を完結させようとする設計にある。研修で扱える領域には、構造的な限界が存在する。批判的思考や仮説構築の研修で育つのは、与えられた課題に対して「より良い答えを探す力」「論理的に整理する力」である。一方、AI時代に本当に問われるのは、「まだ世の中に存在しない問いを発見する力」「現場の体感から仮説の種を取り出す力」「業界外の発想を持ち込む力」である。

これは個別の研修プロバイダーや研修設計者の責任問題ではない。能力カテゴリの認識問題である。書籍『AI収益進化論』が示した PI(Primal Intelligence) および Human Area の概念は、AI時代の人材像が「学んで身につけるスキル」と「個人の中から発掘される知性」の二層構造で成立することを示している(麻生要一『AI収益進化論』第3章)。この二層を一つの研修プログラムに圧縮しようとすると、上位層の発掘が抜け落ちる。

PwC Japan「生成AIに関する実態調査2025春」では、生成AI活用で「期待を大きく上回る効果」を実感している日本企業はわずか10%にとどまる(n=945、売上500億円以上の大企業)。この10%と残り90%の差は、研修受講量の差ではなく、業務プロセスへの正式組込みや「業務変革の中核として捉える」という認識構造の差にある、と同調査は示唆している。研修だけで届かない領域が存在する、ということは、データの側からも観察される。

PI(Primal Intelligence)とは何か ── FI + CIの構造

PI(Primal Intelligence)とは、人にしか持ち得ない原始的知性の総称である。AIには学習データとして取り込めない、現場体験・身体感覚・狂気の発想に由来する知性を指す(麻生要一『AI収益進化論』第3章)。書籍はこれを意図的に「Human Intelligence」とは呼ばない。人間とAIの対立構図に概念を回収させないためであり、PIとAIは対立ではなく役割の違いで併存する。

PIは二つの構成要素から成る。

FI(Field Intelligence・現場知) は、顧客との対話、現場の観察、商談や懇親会での会話、業界の暗黙知から得られる体感的な知性である。「この顧客は本当はこの商品の価値を分かっていない」「この業界では来年こういう構造変化が起きそうだ」「この営業現場では、表面の要件定義の下に別の本音がある」── こうした感触は、現場に身を置いた人間の身体に蓄積されるものであり、文書化されることなく個人の中に眠っている(Field Intelligence の構造)。

CI(Crazy Intelligence・狂気の知性) は、とっぴな発想、業界外からのアイデア、エキセントリックな視点、規律破りの直観である。「業界の常識を全部ひっくり返したら、こういう事業ができるのではないか」「この技術を、誰も使っていない領域に転用したらどうなるか」── 論理的な仮説構築の枠を逸脱した、跳躍的な発想がCIに該当する。CIは規律ある思考訓練の場では発掘されにくく、むしろ業界外との接触や異質な発想の刺激の中で立ち上がる。

PI = FI + CI。この構造が、「問いを立てる力」の本質である。AI研修・批判的思考研修・仮説構築研修で扱われる「論理的思考」「構造化」「仮説検証」は、PIを取り出した後にそれを整理・検証・実装するための道具として機能する。順番として、PIの発掘が先にあり、研修で得たスキルがそれを下支えする。逆ではない。

AI研修で扱える領域とPI発掘の境界

境界①|「答えを探す力」と「問いを立てる力」の構造的差異

AI研修や批判的思考研修、仮説構築研修が育てるのは、主に「既存の課題に対して、より良い答えを探す力」「論理的に思考を組み立てる力」「複数の選択肢を比較する力」である。これらは、課題が既に明確に提示されている場面で威力を発揮する。

PI発掘が向かう先は、「課題そのものを発見する力」「まだ世の中に存在しない問いを立てる力」である。現場の違和感、顧客の本音と建前のずれ、業界の暗黙の前提への疑問── こうした「問いの種」は、論理的思考の訓練では取り出せない。なぜなら、論理は既知の枠組みの中で機能する道具であり、未知の問いを生み出す装置ではないからだ。

AI時代に決定的に重要なのは、「答えを探す力」はAIが代替可能な領域に入りつつあり、「問いを立てる力」は人にしか持ち得ない領域として残る、という構造である(3領域モデルとHuman Area)。批判的思考研修は「答えを探す力」の質を高める。一方、「問いを立てる力」の発掘には、別アプローチが必要となる。

境界②|「学ぶ」と「発掘する」の構造的差異

研修プログラムの本質は、体系化された知識・思考法を「学ぶ」プロセスである。講師が整理した枠組みを受講者が習得する。これは知識伝達のモデルとして極めて有効であり、批判的思考や仮説構築の基礎を全社員に行き渡らせる手段として、研修以上に効率的な装置は存在しない。

PI発掘の本質は、個人の中に既に存在するFI・CIを「発掘する」プロセスである。研修で「教える」ものではなく、個人の中に眠っている現場体験・身体感覚・突飛な発想を取り出す作業に近い。これは知識伝達のモデルでは機能しない。なぜなら、PIは外から注入できるものではなく、個人の経験と発想の中に最初から存在しているからだ。

「PIはあなたの中にある」。これがPI発掘の中核メッセージである。営業現場で5年積み上げた人には5年分のFIが蓄積されている。技術部門で異業界経験を持つ人には、その業界からのCIが眠っている。研修プログラムが提供できるのは、PIを発掘するための「場」と「対話」と「触発」であり、PIそのものを教えることはできない。

境界③|「教室」と「現場」の構造的差異

AI研修・批判的思考研修・仮説構築研修は、教室、eラーニング、ワークショップという形式で実施される。設計された環境の中で、決まった時間に、決まったプログラムに沿って学習が進む。この設計は、知識伝達の効率を最大化するために最適化されている。

PI発掘は、設計された教室では起こりにくい。FI(Field Intelligence)は「現場(Field)」でしか得られない。顧客の表情、商談の場の空気、現場オペレーションの細部── これらは、現場に身を置いた瞬間にしか生まれない情報である。CI(Crazy Intelligence)も同様で、規律ある思考訓練の場ではむしろ抑圧されやすい。業界外の人との偶発的な対話、専門外の知識との接触、規律破りが許される場でこそCIは立ち上がる。

AXアーキテクト育成の5段階モデル が示しているのは、研修・コミュニティ・アサインメント・実プロジェクトを循環させる4要素循環構造である。研修は土台として機能し、アサインメント(実プロジェクトへの配置)がFI発掘の場として機能し、コミュニティ(社外・業界横断の対話)がCI取り込みの場として機能する。教室と現場を分断するのではなく、両者を循環させる設計が、PI発掘の前提となる。

PI発掘の3つのアプローチ

PIは個人の中に既に存在するが、発掘されないまま眠り続けることが多い。発掘を促す具体的なアプローチは、現時点の見立てとして3つに整理できる。

アプローチ①|現場へのアサインメント

実プロジェクトで顧客・現場との対話を通じてFIを発掘する方法である。営業同行、顧客インタビュー、現場オペレーションへの実地配置── こうした場で、人材は自分の中に蓄積されているFIに気づいていく。「ああ、自分はこの顧客のこういう違和感を感じていた」「あの現場で見た細部が、実は重要な変化のシグナルだった」という認識が立ち上がる。AXアーキテクト育成の4要素循環構造のうち、アサインメントのステップがこの機能を担う。

アプローチ②|異質な発想との接触

業界外・専門外との接触でCIを取り込むアプローチである。社外コミュニティへの参加、業界横断の対話セッション、エキセントリックな発想を持つ人物との議論── これらは、規律ある思考の枠を一度解除し、跳躍的な発想に触れる場として機能する。「自分の業界の常識は、別の業界では非常識かもしれない」「この技術は、全く違う領域に転用できるのではないか」というCIの種は、こうした接触の中で立ち上がる。

アプローチ③|PI Injection

発掘したPIを、AIシステムに実際に注入する実践である。これはPI発掘そのものではなく、発掘したPIを事業に組み込む方法論として位置付けられる。経営者や現場リーダーが、自分のFI・CIを意図的にAIのKnowledge層・Instruction層に注ぎ込むことで、AIが自社固有の文脈で動き始める(PI Injectionの構造)。PI発掘とPI Injectionは車の両輪であり、片方だけでは事業効果につながらない。

「問いを立てる力」をAI研修とPI発掘の両輪で構築する

ここまでの整理は、AI研修・批判的思考研修・仮説構築研修を否定するものではない。むしろ逆である。業界先行の各種研修プログラムは、「問いを立てる力」を構築する上での前提条件として極めて有効に機能する。論理的思考の土台、構造化の訓練、仮説検証のフレームワークが整っていない人材には、いきなりPI発掘を促してもFI・CIを整理する道具がない。

階層構造として整理すると、批判的思考研修・仮説構築研修・ロジカルシンキング研修が下層のインフラを構築し、その上にPI発掘(FI + CIの発掘・取り込み)が乗る。両者は対立関係ではなく、補完関係である。

「DXは無駄じゃなかった、AXのインフラだった」── このAlphaDriveが繰り返してきた整理は、人材育成の文脈でも同じ構造として再現できる。「批判的思考研修は無駄じゃなかった、PI発掘のインフラだった」。各種研修プロバイダーが積み上げてきた批判的思考・仮説構築・ロジカルシンキングの研修体系は、AI時代の人材育成における下層インフラとして機能し続ける。その上に、PI発掘という別レイヤーが乗る、という階層構造を組織として設計できるかどうかが、人材育成の成否を分ける。

McKinsey「State of AI」2025年版では、AIから「significant value」を実感している企業はわずか約6%にとどまる一方、その6%の高業績企業はAIを「transformative change」に用いる意図を持ち、ワークフローを根本再設計している傾向がある、と整理されている。研修プログラムだけで成立する設計と、研修を土台にPI発掘を組織化する設計の差が、この6%と残り94%の差の一部を構成している可能性がある。

組織としての問いは、こう立て直せる。「自社の人材育成は、AI研修・批判的思考研修の段階で完結していないか」「現場アサインメント、社外コミュニティ、異質な発想との接触を、PI発掘の場として組織に組み込めているか」「発掘したPIを、AIシステムに注入する実践まで設計できているか」。この3つの問いが立てば、人材育成は「研修受講者数」というKPIから、「PI発掘が起きた人材数」というKPIへと再設計されていく。

よくある質問

Q1:「問いを立てる力」の批判的思考研修・仮説構築研修は不要になるのか?

不要ではない。むしろPI(Primal Intelligence)発掘の前提条件として有効に機能する。批判的思考・仮説構築・ロジカルシンキングの研修で育つ「論理的思考の土台」「構造化の訓練」「仮説検証のフレームワーク」は、発掘されたFI・CIを整理し、検証し、事業に実装するための道具として欠かせない。研修と PI発掘は対立関係ではなく、下層インフラと上層レイヤーの階層関係として併存する。「批判的思考研修は無駄じゃなかった、PI発掘のインフラだった」という整理が現時点での見立てに近い。

Q2:PI(Primal Intelligence)は誰でも発掘可能か?

現時点の見立てとして、PIは特定の天才や特殊な人材だけが持つものではなく、現場経験を積んだ人材であれば誰の中にも存在している。営業現場で年数を積んだ人にはその年数分のFI(Field Intelligence)が、異業界経験を持つ人にはCI(Crazy Intelligence)の種が蓄積されている。問題は「持っているかどうか」ではなく「発掘されているかどうか」である。研修だけで完結する人材育成設計では、PIは個人の中に眠ったまま終わることが多い。発掘には、現場アサインメント、社外コミュニティ、異質な発想との接触といった別アプローチが必要となる。

Q3:AI研修とPI発掘、どちらから始めるべきか?

両輪として並走させるのが現時点の見立てとして妥当である。順番論で言えば、批判的思考や仮説構築の研修プログラムを下層インフラとして整え、同時並行で現場アサインメントや社外コミュニティ参加を組み込んでいくのが組織設計として現実的である。「研修を完了してからPI発掘に進む」という線形モデルでは、研修フェーズが長期化してPI発掘の機会が後ろにずれ込みやすい。書籍コラム②「並走戦術」の発想を人材育成に応用すると、研修とPI発掘は並列に走らせ、両方の動きから生まれる相互作用を組織に蓄積していく設計が有効と考えられる。

Q4:PI発掘は外部の研修会社に依頼できるのか?

PI発掘の「場の設計」は外部パートナーが支援できるが、PIそのものは個人の中に既に存在しているため、外から注入することはできない。具体的には、現場アサインメントの設計、社外コミュニティの組成、異質な発想との接触機会の設計、対話セッションのファシリテーション── こうした「PI発掘が起きやすい場」の設計は、AXアーキテクト育成の経験を持つ外部パートナーが支援可能な領域である。一方、発掘されるPIの中身は、人材本人の経験・観察・発想の蓄積であり、外部から提供することはできない。「研修コンテンツを買う」のではなく「PI発掘の場を組織に組み込む」という視点での外部活用が、現時点では有効と考えられる。

Q5:PI発掘の成果はどう測定すべきか?

研修受講者数や満足度といった従来KPIでは、PI発掘の成果は捉えられない。現時点の見立てとして、測定の方向性は3つに整理できる。第一に、現場アサインメントを経た人材が「これまで言語化されてこなかった顧客の違和感」「業界の暗黙の前提への疑問」を提示できるようになったか、という質的観察。第二に、社外コミュニティ参加を経た人材が「業界外の発想を社内の事業仮説に持ち込めているか」という発想転用の頻度。第三に、発掘されたPIが実際にPI Injectionを通じてAIシステムに組み込まれ、事業の収益進化に接続したかという最終アウトカム。研修KPIから人材アウトカムKPIへの転換が、PI発掘の組織化には伴う。

関連する AX for Revenue の概念

PI概念とその周辺領域:PI(Primal Intelligence) / PI Injection / 3領域モデル・Human Area・領域誤認 / HITL(Human-in-the-loop)

人材像と育成設計:AXアーキテクトとは何か / AXアーキテクト育成の5段階モデル(4要素循環構造)

事業構造との接続:収益進化 / AI導入の3段階

本記事は、AlphaDriveが2026年に展開する人材育成カテゴリBridge記事群の一翼を担う。AI研修の選び方、DX人材育成との違い、全社員AIリテラシー研修の構造問題、4要素循環構造、12メニュー体系、経営層のAIリテラシー育成、変革人材アセスメントといった隣接テーマと、並列REBUTTAL(AI事業開発カテゴリの実装問題・人選問題、AIイネーブルメントカテゴリの定着問題・特定サブカテゴリ問題)の各記事と相互参照される構造で設計されている。


書籍出典:麻生要一(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO/CAXO)『AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造』株式会社Ambitions、2026年5月。

発行:株式会社アルファドライブ(AX for Revenue Institute)

References

出典

  1. PwC Japan(PwC Japanグループ)生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較 ―進まない変革 グローバル比較から読み解く日本企業の活路―(2025)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2025.html
  2. 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造(2026)https://axfr.ai/book
  3. Gartner, Inc.(NYSE: IT)Gartner Survey Reveals 80% of CEOs Say AI Will Force Operational Capability Overhauls(2026)https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-04-23-gartner-survey-reveals-80-percent-of-ceos-say-artificial-intelligence-will-force-operational-capability-overhauls
  4. McKinsey & CompanyThe state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation(2025)https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai
  5. Project NANDA, MITThe GenAI Divide: State of AI in Business 2025(2025)https://mlq.ai/media/quarterly_decks/v0.1_State_of_AI_in_Business_2025_Report.pdf
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