新規事業 4つの思考の型|顧客課題ドリブン・市場トレンドドリブン・R&Dアセットドリブン・経営戦略ドリブン
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- 新規事業 4つの思考の型
- 顧客課題ドリブン
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- 用途仮説100本ノック
- 新規事業の経営論
新規事業 4つの思考の型とは、新規事業を発想する起点を、顧客課題ドリブン・市場トレンドドリブン・R&Dアセットドリブン・経営戦略ドリブンの4つに整理した思考枠組みである。4つに優劣はなく、顧客課題ドリブンを基礎として他3つを組み合わせて使う。
新規事業が生まれる瞬間を、長く現場で見てきた。私は260社を超える大企業の事業創出と、23,800を超える事業プロジェクトの伴走に関わってきた。そのなかで、ひとつ気づいたことがある。
新規事業が立ち上がるとき、その起点は必ずどこかひとつにある。顧客の困りごとから始まったのか。未来の市場の景色から始まったのか。自社が持っていた技術から始まったのか。経営の中期戦略から始まったのか。この4つのどこから始まったかで、その後の進め方の正解は変わる。
しかし、起点が違っても、最終的にたどり着く場所はひとつである。「目の前の顧客の課題を、本当に解いているか」という問いに、すべての新規事業は収斂していく。
本稿は、2025年に出版した『新規事業の経営論』第2章で初めて体系化した「新規事業開発における4つの思考の型」を、原典に忠実に再構成するものである。AI が新規事業の作り方そのものを書き換えつつあるいま、改めてこの4つの型を整理しておく意義は大きいと考えている。「AIは効率化から、収益の創造へ」という時代の入口で、新規事業の発想の起点をどう設計するかは、経営の最初の問いのひとつになる。
4つの思考の型に優劣はない
最初に、いちばん大事な話をしておく。
新規事業 4つの思考の型に、優劣はない。
これは、私が書籍『新規事業の経営論』第2章で繰り返し書いた中心メッセージである。顧客課題ドリブンが優れていて、経営戦略ドリブンが劣っているわけではない。市場トレンドドリブンが新しくて、R&Dアセットドリブンが古いわけでもない。
ただ、ひとつだけ構造的な差がある。顧客課題ドリブンは、4つの思考の型の最も基礎となる考え方であり、核となる考え方である。他の3つは、その上に乗るアプリケーションのような関係にある。
私はこの関係を、コンピュータに例えて説明してきた。顧客課題ドリブンはオペレーティングシステムである。市場トレンドドリブン、R&Dアセットドリブン、経営戦略ドリブンは、その上で動くアプリケーションである。アプリケーションだけがあってもコンピュータは動かない。OS の上に乗ってはじめて、各アプリケーションは仕事をする。
新規事業もこれと同じだ。市場トレンドから発想を始めても、R&Dアセットから発想を始めても、経営戦略から発想を始めても、最終的に顧客課題ドリブンの行動 ── 仮説を持って顧客のところに行き、対話を通じて仮説を書き換える ── と組み合わなければ、新規事業は立ち上がらない。
この一文を、本稿のいちばん芯に置く。残りの議論はすべて、この芯の周辺を整理するための補助線である。
4つの思考の型の見取り図
4つの思考の型は、2つの軸で整理できる。書籍では図表2-3として提示したものを、本稿でも再現する。
横軸:何から考えるか
- 社外・顧客・マーケットから考えるのか
- 自社の中にあるものから考えるのか
縦軸:いつから考えるか
- いまあるもの・目の前にあることを起点とするのか
- 未来の状態から逆算するのか
この2軸を組み合わせると、4つのマス目ができる。
| 社外・顧客から考える | 自社の中から考える | |
|---|---|---|
| いまを起点 | 顧客課題ドリブン | R&Dアセットドリブン |
| 未来から逆算 | 市場トレンドドリブン | 経営戦略ドリブン |
この表が示しているのは、4つの思考の型が「同じ平面の上にある4つの異なる出発点」だということだ。同じ目的地に向かって、別の入口から入っていく。どの入口から入るのが正しいかは、その事業が置かれた状況によって変わる。
ここから、ひとつずつ丁寧に見ていく。
顧客課題ドリブン ── すべての基礎となる思考
顧客課題ドリブンとは、いま目の前にいる顧客の課題をとにかく深掘りし、解決策を考案する思考の型である。
私が前著『新規事業の実践論』(2019年)で「300回顧客のところに行く」と書いたあの行動原理が、この思考の型の中核にある。リーンスタートアップの「Build-Measure-Learn」も、この思考の型の上に成立する方法論だ。
書籍の具体例として挙げたケースを再掲する。
地域限定で「高齢者向け買い物代行+移動サポート付き宅配サービス」を開発したケース。起案者は、自分の祖母が買い物に困っている姿を見て、事業の最初の問いを得た。300回に及ぶインタビューや現場観察を通じてニーズを細分化し、買い物支援に加えて健康相談、簡単な家事代行をパッケージ化した。特定地域でスモールスタートし、フィードバックを得ながら機能を拡張していった。
このケースの構造を見てほしい。出発点に顧客の困りごとがある。仮説を持って顧客のところに行き、対話を重ねる。仮説と現実のズレを修正しながら、サービスの形を整えていく。完成品を一気に作るのではなく、目の前の顧客との対話のなかで、ひとつずつ事業が立ち上がっていく。
これが、顧客課題ドリブンの最も典型的な形である。
顧客課題ドリブンの強みは、「目の前にお客様がいる」という事実そのものにある。仮説が間違っていても、お客様の反応がそれを教えてくれる。事業が成立するかどうかの判断は、市場調査レポートではなく、顧客との対話のなかで下される。
そして、4つの思考の型のなかで顧客課題ドリブンが「基礎」とされる理由は、ここにある。残り3つの思考の型から始まった事業も、最後はかならずこの行動 ── 仮説と顧客の対話の往復 ── と組み合わさなければ、事業として立ち上がらない。
市場トレンドドリブン ── 未来から逆算する
市場トレンドドリブンとは、未来の市場トレンドをとらえたうえで、新たな時代の代表的な顧客を設定し、そのN=1のカスタマーインサイトを掘り下げることで、コンテキストやコンセプトから価値をつくっていく思考の型である。
ロベルト・ベルガンティの「意味のイノベーション」、デザイン思考、新世代インサイト分析などが、この思考の型の隣接領域にある。
書籍の具体例を再掲する。
Z世代の価値観調査を起点に始まったケース。「所有よりも体験」「SNSでの発信に意味がある」という価値観の変化に着目し、「デジタル上で着るアバター向けファッション」事業を構想した。SNSインフルエンサー志向の大学生をN=1として深掘りし、結果として「特別な日のために使える有料レンタル型のアバター衣装プラットフォーム」企画に至った。
このケースで起点になっているのは、「いまの顧客の困りごと」ではない。「未来の顧客が、どんなコンテキストのなかで生きているか」である。Z世代の価値観の変化という構造的トレンドを掴み、その上で、その世代を代表するN=1のカスタマーインサイトを掘り下げていく。
市場トレンドドリブンが扱うのは、まだ顕在化していない需要である。アンケートで「あなたは何に困っていますか」と聞いても出てこない領域だ。コンテキストの変化を読み、そこから新しい価値の輪郭を立ち上げる。
ただし、注意点がある。市場トレンドドリブンで構想を立ち上げた後、必ず「そのN=1の顧客のところに行く」という顧客課題ドリブンの行動と組み合わせる必要がある。トレンド分析だけで終わると、評論家のレポートはできても、事業はできない。トレンドからN=1にたどり着く。N=1との対話を重ねる。この往復が、市場トレンドドリブンの正しい使い方である。
R&Dアセットドリブン ── 自社の技術から発想する
R&Dアセットドリブンとは、自社が保有する特許や技術、保有アセットを起点に顧客価値を考案する思考の型である。
製造業の研究所や、大企業の R&D 部門が新規事業を考えるとき、ほぼ必ずここから入る。「うちの会社にはこの技術がある。これを使って何ができるか」という問いから始まる。
書籍の具体例を再掲する。
宇宙開発向けに開発された高耐久軽量素材を、別の領域で応用できないかと模索したケース。100以上の用途仮説を立て、キャンプ業界、医療機器、災害支援など、多方面のユーザーにヒアリングを重ねた。その結果、災害時の仮設シェルターに高いニーズがあると判明し、「災害時に5分で組み立てられる折りたたみ式軽量シェルター」として事業化に至った。BtoG(自治体)向けの販路開拓も並行して進めた。
ここで登場するのが「用途仮説100本ノック」という手法である。自社が持つ技術やアセットを起点に、考えうるすべての用途仮説を、100以上出していく。そのうえで、ひとつずつ顧客のところに行き、どの用途仮説に最も大きな課題解決のニーズがあるかを確かめる。
100の用途仮説を出すこと自体が目的ではない。100の仮説のなかから、本当に顧客の課題と接続する1〜数本を見つけ出すことが目的である。そして、その見つけ出す作業は、必ず顧客との対話のなかで行われる。
R&Dアセットドリブンには、ひとつの大きな罠がある。プロダクトアウトになってしまうことだ。
「うちの技術はすごい。だから売れるはずだ」という発想に陥ったとき、事業は止まる。技術やアセットは、あくまで「起点」でしかない。それがどんな顧客課題の解決に価値を発揮するのか、顧客探索を行うことが必ずセットになる。
書籍では、この点を繰り返し書いた。R&Dアセットドリブンで新規事業を進めるときほど、顧客課題ドリブンの行動と組み合わせる規律が問われる。
経営戦略ドリブン ── 中長期戦略から逆算する
経営戦略ドリブンとは、自社の中長期戦略から、重点テーマを設定して新規事業を探索する思考の型である。
『両利きの経営』が論じた「ハンティング・ゾーン」の設定や、バックキャスト思考が、この思考の型の中核にある。「2030年に向けて、当社はこの領域に注力する」という経営の意志決定が起点になり、そのテーマの中で新規事業を立ち上げていく。
書籍の具体例を再掲する。
中期戦略で「2030年に向けたサステナビリティ事業への注力」が掲げられた企業。「生活者支援×脱炭素」の重点領域から派生して「家庭の省エネ可視化」に着目した。「家庭用エネルギー管理アプリ+節電インセンティブ制度」の構想を立案し、意識の高い共働き家庭をN=1として深掘りした。「毎月の電力使用状況が家計アプリと連動し、目標達成でポイント還元される」仕組みを考案し、自社の保険・金融部門とも連携してサービス実装の段階へと進めていった。
このケースで重要なのは、「経営戦略は、テーマしか設定できない」という事実だ。「サステナビリティ事業に注力する」という戦略は、どの顧客の何の課題を解くべきかは教えてくれない。それを決めるのは、現場での顧客探索である。
経営戦略ドリブンには、もうひとつの罠がある。パワーポイントから出ることができなくなる罠だ。
中期戦略から重点テーマが降りてくる。そのテーマについて経営会議で議論する。市場規模をスライドにまとめる。競合分析を加える。事業ポートフォリオを描く。3年経っても、5年経っても、パワーポイントの中だけで議論が続いていく。永遠に立ち上がらない事業の典型的なパターンだ。
経営戦略ドリブンで設定できるのは、テーマまでである。そのテーマの中で、どの顧客の何の課題をとらえるか ── これを問わずに議論ばかり進めると、新規事業は永遠に立ち上がらない。書籍ではこの点を、強い言葉で警告した。
4つの思考の型は、組み合わせて使う
ここまで4つの思考の型をひとつずつ見てきた。改めて、本稿の核心メッセージを書く。
4つの思考の型は、単独で使うものではない。組み合わせて使うものである。
異なる思考の型を身につけ、ベースとなる顧客課題ドリブンの思考と組み合わせて新規事業開発を行うことにより、より力強い新規事業の考案ができるようになっていく。
具体的にどう組み合わせるか。
R&Dアセットドリブンで100の用途仮説を出した後、ひとつずつ顧客のところに行き対話を重ねる。これは、R&Dアセットドリブン × 顧客課題ドリブンの組み合わせである。
市場トレンドドリブンで未来の景色を描いた後、そのトレンドを代表するN=1の顧客に会いに行く。これは、市場トレンドドリブン × 顧客課題ドリブンの組み合わせである。
経営戦略ドリブンで重点テーマが設定された後、そのテーマの中で「どの顧客の何の課題か」を顧客との対話のなかで決めていく。これは、経営戦略ドリブン × 顧客課題ドリブンの組み合わせである。
3つのアプリケーション(市場トレンドドリブン、R&Dアセットドリブン、経営戦略ドリブン)は、それぞれ独自の発想の起点を提供する。しかし、それらが事業として立ち上がるためには、必ず OS としての顧客課題ドリブンと組み合わさなければならない。
これが、書籍第2章の最重要メッセージである。
4つの思考の型を取り違えると何が起きるか
書籍では十分に展開しなかったが、現場で繰り返し見てきたパターンを、ここで整理しておく。4つの思考の型は、いま立ち上がろうとしている事業がどの起点から発想されたかを正しく見極めるための整理である。これを取り違えると、事業は止まる。
R&Dアセットドリブンで生まれた事業に、市場トレンドドリブン用の検証プロセスを当てると、悲しい結果になる。「市場規模が小さい」「競合が強い」という結論で、せっかくの技術起点の事業が殺されやすい。R&Dアセットドリブンの事業は、まず用途仮説を100本出し、ひとつずつ顧客のところに行く ── この流れで検証されるべきものだ。
経営戦略ドリブンの段階で、「どの顧客の何の課題か」を問わずに、パワーポイント上の議論を続けると、事業は永遠に立ち上がらない。重点テーマが決まったら、すぐに現場に降りる ── この切り替えができないと、3年経っても5年経っても、議論だけが続いていく。
顧客課題ドリブンで生まれた事業に、経営戦略ドリブンの「中期戦略との整合性」を強く問うと、せっかくの現場の発見が殺されやすい。目の前の顧客の課題から始まった事業が、中期戦略との接続を求められた瞬間に立ち上がらなくなる。
4つの思考の型は、「人のタイプ分類」でも「組織のタイプ分類」でもない。「いま、この一本の事業が、どの起点から発想されているか」を見極めるための整理である。同じ会社の中に、4つの思考の型から生まれた事業が並走することは、むしろ健全な状態だ。
自己診断のヒント
ここから先は、書籍にない問いだが、現場で繰り返し役に立ってきた問いを3つ書いておく。新規事業を進めている人が、自分の事業の出発点を見極めるためのヒントとして使ってほしい。
ひとつめ。「この事業が生まれた最初の瞬間、机の上に何があったか」。
顧客のインタビュー記録があったなら、顧客課題ドリブンの可能性が高い。市場トレンドの調査レポートがあったなら、市場トレンドドリブンの可能性が高い。技術の仕様書があったなら、R&Dアセットドリブンの可能性が高い。中期経営計画があったなら、経営戦略ドリブンの可能性が高い。
ふたつめ。「この事業を止めたら、誰が一番悲しむか」。
特定の顧客の顔が浮かぶなら、顧客課題ドリブンとして進められている。市場の風景しか浮かばないなら、市場トレンドドリブンの段階にいる。社内の研究者の顔が浮かぶなら、R&Dアセットドリブンの段階にいる。経営陣の顔が浮かぶなら、経営戦略ドリブンの段階にいる。
みっつめ。「初期検証で何を確かめようとしているか」。
顧客の課題が本当に存在するかなら、顧客課題ドリブンの段階だ。市場の構造変化が本当に起きるかなら、市場トレンドドリブンの段階だ。自社の技術がどの用途で価値を発揮するかなら、R&Dアセットドリブンの段階だ。中期戦略のテーマが事業として成立するかなら、経営戦略ドリブンの段階だ。
これらの問いは、自分が立っている位置を確かめるためのものである。位置が分かれば、次に組み合わせるべき思考の型も見えてくる。
AI時代の含意
ここまでは、書籍『新規事業の経営論』第2章の整理に忠実に書いてきた。最後に、AI時代の含意について、控えめに付記しておく。
4つの思考の型は、AI が登場したいま、すべて加速できる。顧客課題ドリブンの仮説整理、市場トレンドドリブンのコンテキスト分析、R&Dアセットドリブンの用途仮説生成、経営戦略ドリブンのバックキャスト思考 ── どの工程も、AI と一緒に進めることで、速度が上がる。
ただし、AI Sprint で速くなるだけでは、差はつきにくい。同じ AI を使えば、競合も同じ速度で動いてくるからだ。
差がつき始めるのは、自社固有の現場知性 ── まだ言語化されていない、データになっていない、それでも現場には確かに存在する情報 ── と組み合わせたときである。各思考の型から発想された仮説が、自社の現場で蓄積された生の情報と接続したとき、その AI は他社の AI とは別の存在として動き始める。
特に R&Dアセットドリブンと、AI の相性は良い。用途仮説100本ノックを、AI と共に回す。100の用途仮説をたった一晩で生成することは、いまや技術的に可能だ。
しかし、ここでも罠がある。100の用途仮説を生成しても、何が金脈で何がノイズかを判別するのは、結局のところ、経営者と研究者のセンスである。AI は仮説を量産できるが、その中から「これは行ける」と選び取る作業は、人間に残る。
経営戦略ドリブンとAIの組み合わせには、別の論点がある。「中期戦略のテーマを AI に出させる」という使い方を始めると、経営戦略ドリブンの罠 ── パワーポイントから出ることができない罠 ── をさらに深くする可能性がある。AI が出してきた戦略レポートを延々と議論し、現場に降りる前に時間が過ぎていく。
AI が新規事業の作り方を書き換えるとしても、4つの思考の型の構造そのものは、いまのところ変わらない。組み合わせる相手 ── 顧客との対話 ── は、AI が肩代わりできない領域として残り続ける。AI は速くなる場所と、AI では届かない場所がある。この見極めが、新規事業の経営者の最初の仕事になる。
結論 ── 4つの思考の型は、起点を整理するための地図である
最後に改めて書く。
新規事業 4つの思考の型に、優劣はない。顧客課題ドリブンは最も基礎となる考え方で、市場トレンドドリブン、R&Dアセットドリブン、経営戦略ドリブンは、その上に乗るアプリケーションである。4つは単独で使うものではなく、組み合わせて使うものである。
そして、どの思考の型から始まった事業も、最終的にはひとつの行動と組み合わさる。仮説を持って、顧客のところに行く。この行動が、すべての新規事業の根に置かれている。
これは、AI が登場しても変わらないと、私は考えている。AI は仮説を量産する。AI は分析を加速する。AI は完成品を一晩で作る。しかし、顧客と向き合い、その表情を読み、対話のなかから仮説を書き換えていく作業は、まだ人間の側に残っている。
4つの思考の型は、その人間の作業に、どの入口から入っていくかを整理するための地図である。地図は、目的地ではない。地図を使って、現場に降りる ── そこから先が、新規事業の本当の仕事になる。
よくある質問
Q1. 新規事業 4つの思考の型に「Willドリブン」は含まれますか
含まれません。Willドリブンは、新規事業の発想の起点を整理する4つの思考の型とは別レイヤーの概念で、起案者個人の内発的動機を指します。書籍『新規事業の経営論』第5章のハンティング・ゾーン論で別途扱っています。本稿で扱う4つの思考の型は、顧客課題ドリブン・市場トレンドドリブン・R&Dアセットドリブン・経営戦略ドリブンの4つに限定されます。
Q2. なぜ顧客課題ドリブンだけが「基礎」と位置付けられるのですか
他の3つの思考の型から始まった事業も、最終的には「目の前の顧客の課題を本当に解いているか」という問いに収斂するからです。市場トレンドからN=1の顧客に降りる、R&Dアセットの用途を顧客との対話で確かめる、経営戦略のテーマの中で具体的な顧客課題を見つける ── これらすべてが、顧客課題ドリブンの行動と組み合わさってはじめて、事業として立ち上がります。顧客課題ドリブンをオペレーティングシステム、他3つをアプリケーションに例えるのは、この構造を示すためです。
Q3. R&Dアセットドリブンで気をつけるべきことは何ですか
プロダクトアウトにならないことです。「うちの技術はすごい。だから売れるはずだ」という発想で進めると、事業は止まります。技術やアセットは、あくまで「起点」でしかありません。それがどんな顧客課題の解決に価値を発揮するのか、顧客探索を行うことが必ずセットになります。用途仮説100本ノックという手法は、その顧客探索を体系的に行うための実装です。100の用途仮説を出すこと自体が目的ではなく、100の仮説から本当に顧客の課題と接続する1〜数本を見つけ出すことが目的です。
Q4. 経営戦略ドリブンの最大の罠は何ですか
パワーポイントから出ることができなくなる罠です。中期戦略から重点テーマが降りてきて、経営会議で議論が続き、市場規模分析や競合分析のスライドが積み上がっていく。3年経っても5年経っても、議論だけが続いて事業は立ち上がらない ── このパターンを、現場で繰り返し見てきました。経営戦略ドリブンで設定できるのはテーマまでで、そのテーマの中で「どの顧客の何の課題か」を問わずに議論を続けると、永遠にパワーポイントから出ることができません。重点テーマが決まったら、すぐに現場に降りる ── この切り替えが、経営戦略ドリブンの最大の規律です。
Q5. 4つの思考の型は、AI 時代でも変わらないのですか
構造そのものは、いまのところ変わらないと考えています。AI は4つすべての思考の型を加速できます。顧客課題ドリブンの仮説整理、市場トレンドドリブンのコンテキスト分析、R&Dアセットドリブンの用途仮説生成、経営戦略ドリブンのバックキャスト思考 ── どの工程も、AI と一緒に進めることで速度が上がります。しかし、顧客と向き合い、対話のなかから仮説を書き換えていく作業は、まだ人間の側に残っています。AI は仮説を量産しますが、何が金脈で何がノイズかを判別するのは、結局のところ経営者と起案者のセンスです。4つの思考の型は、その人間の作業にどの入口から入るかを整理する地図として、AI 時代でも機能し続けるはずです。
関連概念
新規事業 4つの思考の型を理解するうえで、関連する概念を以下に整理する。
- PI Injection:AI に見えない領域で新たな金脈を探すプロセス。R&Dアセットドリブンの用途仮説100本ノックを AI 時代に拡張する論点として接続する
- AI Orchestration:複数の AI を経営の意志で束ねる経営実践。4つの思考の型から生まれた事業を AI で加速するときの基盤能力
- 収益進化:AI でまだ存在しない収益を作るという質的変化。新規事業の延長線上にある経営概念として位置付けられる
- AXアーキテクト:AI 時代の事業開発を担う変革推進人材。4つの思考の型を AI と組み合わせて事業に着地させる担い手
- 地域AX:地域企業の収益進化を実現する戦略概念。地域における新規事業創出にも、本稿の4つの思考の型が適用される
- AI 導入の3段階:企業がAI活用に取り組む過程の段階モデル。新規事業の進め方も段階によって変わる
書籍『AI収益進化論』は、AX for Revenue 事業の思想的支柱として刊行された。新規事業 4つの思考の型を AI 時代の文脈で読み直す視点については、本書を参照されたい。
出典
- 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)「AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造」(2026)https://axfr.ai/book
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