内製化仮説の立て方|財政改善AIを実装する起点となる5つの判定軸と5ステップ
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内製化仮説の立て方とは、財政改善AIを実装するための起点となる仮説形成手法である。事業を工程分解した上で、各工程について品質・費用・期間・法的責任・専門性の5軸で「AIで作れる可能性」を判定し、実際に一度作って現行の外部調達成果物と比較して、内製・共製・外部調達を選び直す。事業まるごとではなく、工程ごとに仮説を立てる。
2026年に起きた完成品構築コストの崩壊は、行政の「作る仕事」の設計を静かに書き換えつつある。これまで外部事業者に完成品として発注していた仕事のうち、AIによって庁内で作れる領域が拡大している。この領域を見極める起点が「内製化仮説」である。
本稿は、財政改善AIの実装を担う職員に向けて、内製化仮説の立て方を5つの判定軸と5ステップの手順として整理する。前提となる工程の分解については工程分解で扱う。位置付けの全体像はthree-stage-model-of-gyosei-axを参照されたい。
なお、内製化仮説は「外注をなくす運動」ではない。専門性・法的責任・大規模運用が必要な工程は、これまで通り外部事業者と進める方が合理的である。AIは効率化から、収益の創造へ。行政においては、AIは効率化から、公共価値の創造へ向かう。その途上で、行政に「作る力」を取り戻す起点として、内製化仮説が機能する。
内製化仮説とは何か ― 財政改善AIの実装の起点
財政改善AIを実装するには、「どの工程を庁内で作るか」の判断が必要である。しかし、いきなり「作ってみる」に踏み込むのは危うい。作れる可能性の見立てを立てないまま実装に入ると、途中で頓挫し、事業者との関係も揺らぐ。
この見立てが「内製化仮説」である。仮説なので、実際に作ってみて否定される可能性がある。ここが重要な点で、内製化仮説は「必ず内製する」判断ではない。「一度作ってみる」判断の起点として機能する。
構造としては、仮説形成 → 実装検証 → 判断の3ステップの最初のステップにあたる。「AIで作れるかもしれない」という職員の直感を、比較検証可能な仮説に格上げすることが目的である。直感のままでは検証できないし、逆に、直感を仮説にせずいきなり検証に入っても、何を検証しているのか分からなくなる。
この手法は、書籍『AI収益進化論』が民間版で示した「Instant Full-Product」の考え方と系譜を同じくする。作るコストが下がった領域で、まず作ってみる、という姿勢である(麻生要一『AI収益進化論』第8章)。ただし行政の実装は、民間より制約が厳しい。その差異は本稿の後半で整理する。
前提 ― 工程分解が先にある
内製化仮説は「事業まるごと」に対して立てるのではない。ここを取り違えると、多くの案件で仮説が「No」で終わってしまう。事業まるごとの内製化は、専門性・法的責任・大規模運用の観点から、多くの場合成立しない。
原則は「事業を工程に分解した上で、各工程に対して仮説を立てる」である。工程ごとに、内製・共製・外部調達を選び直す。これが財政改善AIの核心であり、内製化仮説はその工程単位の判定として機能する。工程分解そのものの手順は工程分解で扱うため、本稿では前提として扱う。
具体例として、プレミアム付商品券事業を工程分解すると、次のような姿になる。
- (a) 事業設計・要件定義
- (b) 制度・条例整備
- (c) 業務フロー設計
- (d) 住民向け広報コンテンツ作成
- (e) 電子申請システム構築
- (f) 受付・審査業務
- (g) 実績データ収集・分析
この7工程それぞれについて、内製化仮説を立てる。(d)住民向け広報コンテンツ作成と(a)事業設計・要件定義では、AIで作れる可能性も、必要な専門性も、法的責任の重みも異なる。工程が違えば、仮説の結論も違ってよい。
事業まるごとを対象にせず、工程ごとに仮説を立てる。この原則が、内製化仮説を機能させる前提条件になる。
5つの判定軸 ― 何を見て、何を判断するか
各工程について内製化仮説を立てる際、次の5軸で判定する。5軸のすべてが「Yes」と判定できた工程のみ、「一度作ってみる」段階へ進める。1つでも「No」なら、その工程は外部事業者と進めることを決める。
軸① 品質 ― AIで作れる可能性はあるか
その工程は、生成AI・コーディングAI・分析AIといった現在の技術水準で、完成物まで届く領域か。現行の外部調達成果物と同等以上の品質が期待できるか。
この段階では「試してみないと分からない」で構わない。ここで「不可能」と早々に判断する必要はない。逆に、「なんとなくできそう」の直感を、この軸で「品質仮説あり」に格上げすることが、この軸の役割である。
軸② 費用 ― 内製の方が費用効率が高いか
外部調達の場合の費用と、内製の場合のコスト(職員工数 + AI利用料など)を比較する。財政効果は「削減時間」ではなく、実支出削減額・回避費用・能力余力の3指標で見立てる。
初回は費用効率が悪くても、2回目以降は下がるという学習効果も考慮する。1回だけの案件で判断しない。
軸③ 期間 ― 内製で必要な期間は許容範囲か
事業の期限(住民サービス開始日・議会報告日など)に間に合うか。内製で「作ってみる」フェーズに90日程度の余裕があるか。「一度作って、改善して、実装する」の反復に必要な期間を、事業のスケジュールの中で確保できるかを見る。
軸④ 法的責任 ― 内製で担える責任範囲か
個人情報保護法・情報公開法・行政手続法などの法的責任を、庁内で担えるか。住民の権利に関わる判断など、法的責任が大きい工程は、内製化仮説の対象から外す。
内製化仮説は「規則の例外を作る場」ではない。行政AX出島の中で、正当な手続を維持しながら実装する。認証取得や事業者説明が、自治体の判断責任を代替するわけではないことも、この軸で確認する。
軸⑤ 専門性 ― 内製で担える専門性か
高度なセキュリティ設計・大規模システム開発・特殊な法務判断など、高い専門性が必要な工程は、外部事業者と進める方が合理的である。この点は財政改善AIの原則として維持されている。
内製化仮説の対象は、「AIで作れる可能性があり、かつ庁内の専門性で担える」工程に限定される。事業者との協働は、この軸で外れた工程で継続する。
5ステップの手順 ― 明日から何を始めるか
5つの判定軸を、実務手順として運用するのが以下の5ステップである。30〜90日を1サイクルの目安として回す。
ステップ1: 対象案件の選定
次に外注する予定の「作る仕事」を1つ選ぶ。大規模事業ではなく、まず小さな事業から始める。目安は、住民向け広報・政策メモ・議会答弁のたたき台など、公開情報型で扱える事業である。案件選定の詳細はcase-selection-five-axesで扱う。
ステップ2: 工程分解
選んだ案件を5〜8工程程度に分解する。手順は工程分解に従う。工程分解の目的は費用削減だけではなく、行政に「設計権・評価権・学習資産」を戻すことにある。この視点をステップ2で押さえておく。
ステップ3: 各工程を5軸で判定
各工程について、品質・費用・期間・法的責任・専門性の5軸で判定する。5軸すべて「Yes」の工程をリストアップし、いずれか1つでも「No」の工程は、外部事業者と進めることを決める。
このステップで、事業全体の中で「内製化仮説の候補となる工程」と「事業者との協働で進める工程」が明確に分かれる。
ステップ4: 1〜2工程で「一度作ってみる」を実施
5軸すべて「Yes」の工程が複数あっても、一度に全部内製化しない。1〜2工程を選んで、public-info-gyosei-ax-dejima-launchの枠内で作ってみる。公開情報型で扱える範囲から始めることで、法的責任と情報管理のリスクを最小化しながら実装検証ができる。
ステップ5: 現行成果物と比較して判断
作ったものと、現行の外部調達成果物を並べて比較する。品質・費用・期間の3観点で比較し、内製・共製・外部調達のどれが妥当かを、比較結果に基づいて判断する。
判断結果は、次の案件の内製化仮説の精度を高める学習資産となる。1回の判断で終わらせず、次のサイクルに引き継ぐ。
よくある落とし穴 ― 直感を仮説に格上げしないと検証できない
内製化仮説を立てる際、次の5つの落とし穴に注意する。いずれも、仮説形成の途中で運用が止まる典型パターンである。
落とし穴1: 「AIで作れそう」の直感で止まる
なんとなくできそう、の段階では、実際に作る判断まで至らない。5軸で判定して仮説に格上げする必要がある。直感 → 仮説 → 検証の順序を守る。
落とし穴2: 「事業まるごと」で仮説を立てる
事業まるごとの内製化仮説は、多くの場合「No」で終わる。工程分解した上で、工程単位で仮説を立てる。
落とし穴3: 「すべての工程を一度に内製化する」
5軸すべてYesの工程が複数あっても、一度に全部内製化しない。1〜2工程から始めて、反復で精度を上げる。
落とし穴4: 「一度失敗したら次はない」と考える
内製化仮説は仮説なので、否定される可能性がある。否定された仮説も、次の判定の精度向上に貢献する学習資産である。失敗を許容する枠組みとして、行政AX出島の中で実施する。
落とし穴5: 事業者に断りを入れる、を避けて仮説を立てない
内製化仮説を立てることは、事業者との既存関係を切ることではない。外注をなくす運動ではない。事業者との対話・協働の中で、内製化仮説を立てても問題ない。工程ごとに選び直す、という枠組みそのものが、事業者との関係を書き換えるものではない。
民間版 Instant Full-Product との構造対応
書籍『AI収益進化論』は、民間企業向けに「Instant Full-Product」という概念を示した。生成AIやコーディングAIの進化で作るコストが大きく下がった領域では、一晩で完成物まで作れる場面が生まれつつある、という整理である(麻生要一『AI収益進化論』第3章)。この背景には、完成品構築コストの崩壊という構造変化がある。
行政における内製化仮説は、この民間版と系譜を同じくする。ただし、対応する部分と異なる部分がある。
対応する部分は、「AIで完成物まで届く領域が拡大している」という構造認識と、「一度作ってみる」の姿勢である。作るコストが下がった以上、まず作ってみて、比較して判断する、という順序は民間も行政も変わらない。
異なる部分は3つある。第一に、行政は「規則の例外を作る場ではない」の原則を維持する。民間より制約が厳しい。第二に、行政は「外注をなくす運動ではない」を維持し、事業者との協働を継続する。工程ごとに選び直すのであって、事業者との関係全体を切り替えるのではない。第三に、行政は行政AX出島の枠内で実施し、公開情報型から段階的に対象を広げる。いきなり機密情報や個人情報を扱う工程で試すことはしない。
同じ設計思想の系譜にあるが、実装の詳細は異なる。この差異を理解した上で、書籍の思想を行政の実装に翻訳する。
学習資産の蓄積 ― 1回の判断で終わらせない
内製化仮説の最終目的は、1つの案件の判断ではない。次の案件で使える学習資産の蓄積が最終目的である。蓄積される学習資産には3種類ある。
第一に、判定軸の精度向上。「この工程は5軸判定でYesと出たが、実際にはこの理由でNoだった」という学びは、次の案件の5軸判定の精度を上げる。
第二に、内製化パターンの型化。このタイプの工程は、このAIツールでこう作れる、というパターンが蓄積される。次の案件で再利用できるパターン集として、庁内に残る。
第三に、事業者との協働パターン。この工程は事業者と協働した方が合理的、という判断パターンが、事業者との対話の中で蓄積される。事業者との関係は、内製化仮説を通じて、むしろ精緻化されていく。
学習資産の蓄積は、行政AXアーキテクトの能力形成そのものである。個人ではなく、組織能力として蓄積する設計が重要になる。90日サイクルで何を残すかはninety-day-outcomesで、PoCで終わらせない条件はpoc-four-conditionsで扱う。
よくある質問
Q1. 内製化仮説を立てるのは、どの部署の職員が担うのか
特定の部署に固定する必要はない。事業担当課の職員が主体となり、DX推進部門・情報政策部門・契約管財部門が支援する形が一般的である。重要なのは、事業の中身を理解している職員が判定に関与することで、AIツールの知識だけで判定しても、5軸のうち軸①以外は精度が出にくい。行政AXアーキテクトが育つ過程で、この判定を担う人材が庁内に増えていく。
Q2. 5軸判定のうち、どの軸が最も重要か
どの軸も、1つでもNoならその工程は外部事業者と進めることになるため、優先順位はつかない。強いて言えば、軸④法的責任と軸⑤専門性の2軸を先に判定することで、明らかに内製化仮説の対象外の工程を早期に切り分けられる。軸①〜③は「作れる可能性」の見立てだが、軸④⑤は「そもそも内製の対象になるか」の可否判断に近い。
Q3. 中小規模の市町村でも、内製化仮説を立てられるか
立てられる。むしろ、職員数が限られている中小規模の自治体こそ、工程分解と内製化仮説の考え方が財政と能力の両方に効く。ただし、いきなり大規模事業から始めない。住民向け広報コンテンツや政策メモのたたき台など、公開情報型で小さく始めることを推奨する。学習資産を蓄積してから、対象工程を段階的に広げる。
Q4. 事業者との既存契約がある案件でも、内製化仮説を立ててよいのか
問題ない。内製化仮説を立てることは、既存契約を切ることではない。現行契約の中で外部調達している工程のうち、次回の更新・再委託のタイミングで工程ごとに選び直す、という運用が現実的である。事業者との対話の中で仮説を共有し、協働の形を再設計することもできる。事業者側にも、AIを前提とした工程の設計は新しい論点であり、共同で学ぶ関係性が成立する。
Q5. 内製化仮説を立てても、実際には作らない、という判断はありうるか
ある。5軸すべてYesと判定した工程であっても、事業のスケジュール・職員の稼働状況・優先度の関係で、今回は作らない、という判断が成立する。仮説はあくまで仮説であり、実装検証に進むかどうかは別の意思決定である。ただし、Yesと判定した工程を1つも作らない状態が続くと、学習資産が蓄積されない。年に1〜2工程は実装検証まで進める運用が望ましい。
内製化仮説は、財政改善AIの入口である。事業まるごとではなく工程ごとに、直感ではなく5軸の仮説として、1回きりではなく学習資産として蓄積する。この3つの原則を守ることで、行政に「作る力」が少しずつ戻ってくる。外注をなくす運動ではない。工程ごとに選び直すという設計を通じて、事業者との関係も精緻化していく。書籍『AI収益進化論』が民間で示した思想は、行政においては、公共価値の創造を静かに支える起点として機能する。
発行: 株式会社アルファドライブ
出典
- 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)「AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造」(2026)https://axfr.ai/book
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