PIの担い手はどこから来るのか|若手の足場が消える時代の、育成OSの切り替え
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- PIの担い手 どこから来る
- AIを使いこなす人間 育成
- 足場 scaffolding 消失
- エントリーレベル業務 AI 自動化
- 育成の OS 効率の山 進化の山
- 現場への曝露 Field 育つ
- 逸脱の許可 Crazy 育つ
- 収益進化家 AXアーキテクト FDE
②AIを使いこなす人間の担い手は、放っておくと育たない。エントリーレベル業務がAIに自動化され、若手の足場(scaffolding)が消えつつある。世界はこれをリスクとして警告するが、処方箋を持たない。効率の山の論理で考えているからだ。AX for Revenueの処方箋はこうだ。Fieldは現場への曝露からしか、Crazyは逸脱の許可からしか育たない。育成のOSを、効率の山から進化の山へ切り替える。担い手階層(収益進化家→AXアーキテクト→FDE→収益進化FDE)は、その育成OSの実装形である。
本記事は、若手の足場(scaffolding)が消えつつある時代に、②AIを使いこなす人間の担い手がどこから来るのかを、麻生要一個人の視点で整理したTHEORY記事である。AIは効率化から、収益の創造へ。その転換を担う人間は、放っておいては生まれない。
AI時代の人材論の議論で、最も見落とされているのは、②AIを使いこなす人間の担い手が、どこから来るのか、という上流問題である。
three-responsibility-granularitiesで三つの責任粒度を、beyond-searching-for-superstarspi-five-lenses-complementary-teamcomplementarity-three-transformation-typesで補完チームの組み方を整理してきた。
しかし、その補完チームを構成する②の担い手は、そもそもどこから来るのか。
世界の主要な調査機関は、この問いに対して危機感を持ちつつある。だが、明確な処方箋を提示できているわけではない。本記事では、AX for Revenueの観点から、この上流問題への処方箋を書く。
②AIを使いこなす人間は、放っておくと育たない
WP-09『AIとの共創のマネジメント』第3章には、こう書かれている(AX for Revenue Institute『AIとの共創のマネジメント』第3章)。「②AIを使いこなす人間を束ねる設計を描いても、その担い手が育たなければ、編成は絵に描いた餅になる」。
②の担い手は、AI Sprint(効率化AI)の実装者ではない。PI Injectionの共同創作者として、AIを学習範囲の外側へ跳ばす人である。汎用の生成AIを、この会社・この市場の収益創出AIへと育てていく、その手を持つ人だ。
three-responsibility-granularitiesで確立したように、②は放っておくと①(自律AIエージェント)の劣化版に滑り落ちる。AIの出力をただ追認する「編集者」に。AIを回すだけの「受動的な利用者」に。McGuire et al.(2024)、Walton et al.(2025)、Liu et al.(2025)の研究群が示すのは、AIとの心地よい共創ほど、均質化の山へ滑り落ちやすいという構造だ。
だからこそ、「②を②であり続けさせること」自体が、マネジメントの能動的な責務になる。
しかし、この責務を果たすには、そもそも②の担い手が組織内に育っている必要がある。育っていない担い手を、経営がいかに束ねようとしても、束ねる対象がない。本記事の問いはここにある。②の担い手は、どこから来るのか。
若手の足場(scaffolding)が消えつつある ── McKinseyの指摘
WP-09 第3章で言及されているのが、McKinseyのTurle et al.(2026)による指摘である。同社People & Organizational Performance Practiceは、AI時代の早期キャリア人材について、次のような構造を示している(McKinsey『Rethinking early-career talent in the agentic organization』2026)。
調査、データクリーンアップ、基本的なコーディング、文書作成、予備的分析。これらは歴史的にエントリーレベルの職務として位置づけられてきた業務だが、AIによって急速に自動化されつつある。あるグローバルテクノロジー企業のリードリクルーターは、「グレードレベルやエントリーレベルの責任として位置づけられてきた業務の大部分は、自動化できる」と述べている。
問題は業務が減ることそのものではない。若手が判断力や例外処理の感覚を培ってきた「足場(scaffolding)」が消えつつあることだ。
なぜ「足場」なのか。若手は、繰り返し業務を通じて、業務の全体像・判断の勘所・例外対応の感覚を身につけてきた。議事録の作成を100本重ねるなかで、会議の構造を掴む。データ整理を繰り返すなかで、数字の異常への感度を身につける。調査資料作成の反復のなかで、情報の重み付けを覚える。これらの繰り返し業務が「足場」として機能し、若手が上位業務(判断・例外処理・意思決定)へ登っていくためのステップになってきた。
しかし、AIがその繰り返し業務を自動化することで、この足場が消える。あるFortune 500企業の人事責任者は、McKinseyの取材にこう語っている。「従業員は繰り返しを通じて学んでいた。今や企業は意図的に発達を設計しなければならない」。
同社は、対応しない組織のリスクとして、長期的な人材パイプラインの弱体化、リーダーシップ育成の低下、徒弟制度的な知識構築層の喪失という三重の影響を挙げている。
McKinseyだけではない。IMDのMichael Wade教授は、2026年末までに従来型ミドルマネジメントポジションが10〜20%削減される見込みを示し、育成パスの断絶を警告している(IMD『2026 AI Trends』2025)。BCG Henderson InstituteはHarvard Business Reviewとの共同研究で、AIをチームメートや従業員として位置づける組織で、個人の説明責任が低下し職業的アイデンティティへの不確実性が高まる現象を報告している(HBR/BCG 2026)。SequoiaのRoelof BothaとBlockのJack Dorseyの共著論考も、組織構造の根本的再設計を提起する立場から、育成の前提の崩壊に触れている。
世界の主要な論者は、揃って危機感を表明している。ただし、具体的な処方箋には至っていない。
世界は警告するが、処方箋を持たない ── なぜか
WP-09 第3章はここに、重要な指摘を置く。「世界はこれをリスクとして警告するが、処方箋を持たない」。
なぜ処方箋が見つからないのか。世界の論者が、効率の山の論理で育成を考えているからだ。
効率の山の論理での育成観はこうである。定型業務を通じて業務の全体像を身につけさせる。上位業務への「足場」を、繰り返しの中で作る。OJT(On the Job Training)の伝統に、育成の基本を置く。この論理は、20世紀後半の日本企業・欧米企業を通じて、確立された「育成の常識」だった。
しかし、AI時代には成立しない。定型業務がAIに自動化されるため、足場そのものが消える。若手を「AIに任せられる業務」に配置しても、繰り返しの中で全体像を掴む機会が減っていく。
世界の論者が提示する対応策を並べてみると、この構造がよく見える。
「若手にもAIツールを渡すべきだ」という提案。これは正しいが、渡し方を間違えると②が①の劣化版に滑り落ちる。「AIリテラシー研修を強化すべきだ」という提案。研修でスキルは育つが、PIは育たない。「若手の判断機会を意図的に増やすべきだ」という提案。部分的に正しいが、全体像がない。
いずれも効率の山の育成OSを前提にしている。定型を覚えさせ、繰り返しで足場を作り、上位業務へ登らせる。この論理の内側で「AIをどう組み込むか」を考えているから、処方箋が細部にとどまる。
進化の山の育成OSへの切り替えが必要だ。これは研修メニューの変更ではなく、育成の根本前提の切り替えである。
Fieldは現場への曝露から、Crazyは逸脱の許可から育つ
WP-09 第3章は、この切り替えの中核をこう書いている。「Fieldは現場への曝露からしか、Crazyは逸脱の許可からしか育たない」。
なぜ繰り返し業務ではLINK: pi-primal-intelligenceが育たないのか。PIの2要素、それぞれの育成条件を見ればわかる。
Field Intelligenceは、言語化されていない、データになっていない、それでも現場には確かに存在する情報である。工場床の部品の欠片、営業の名刺渡しの一瞬、CSの問い合わせの言い方の変化。Fieldを身につけるには、現場に直接触れる経験(現場への曝露)が必要になる。
定型業務や、AI経由の間接的な業務では、現場の一次情報に触れる機会が失われる。会議は議事録AIが要約し、営業データは分析AIが可視化し、顧客の声はダッシュボードに整えられて届く。整えられた情報を受け取るだけの若手は、Fieldを持てない。
顧客と直接会う、工場現場に立つ、クレーム対応の最前線にいる。こうした曝露が、Fieldを育てる。AI時代には、この曝露を意図的に設計しなければ、若手は現場から遠ざかる一方になる。「AIで効率化された時間で、若手を現場へ出す」という選択は、経営が意識してしなければ起こらない。
Crazy Intelligenceは、論理的に導出できず、現場の声からも導かれない、内発的に飛躍する発想である。ダイソンが工場集塵機を家庭用掃除機に転用したように、3Mが失敗作の接着剤をポストイットに変えたように。
Crazyを育てるには、「常識から逸脱する許可」が必要になる。定型業務では、逸脱は「間違い」として扱われる。マニュアルからの逸脱、想定手順からの逸脱、上位者の指示からの逸脱。これらは効率の山の論理では「品質のばらつき」として抑制の対象になる。
しかし、Crazyの種は、この逸脱の中にある。逸脱を許可する組織文化(CULTURE7のUnconventionality因子、culture7-seven-factors参照)が、Crazyを育てる。AI時代には、この逸脱の許可を経営として設計しなければ、若手はCrazyを出さない。出しても評価されないなら、出す動機が消える。
両者に共通するのは、繰り返し業務では育たないということだ。むしろ、繰り返し業務の外側でしか育たない。効率化の徹底と、担い手の育成は、単純には両立しない。ここに経営の設計判断が要る。
育成のOSを、効率の山から進化の山へ切り替える
効率の山の育成OSと、進化の山の育成OSは、次のように整理できる。
効率の山の育成OSは、定型を覚えさせ、繰り返しで足場を作り、OJTで上位業務へ登らせる。20世紀後半の育成の常識である。
進化の山の育成OSは、現場に立たせ(Fieldの曝露)、逸脱を許し(Crazyの許可)、PIの出方を見立てる(pi-five-lenses-complementary-teamで扱ったPOT Assessmentの5レンズ)。AI時代の育成の新しいOSである。
育成のOSの切り替えは、単なる研修プログラムの変更ではない。組織文化(CULTURE7)、人事評価制度(査定からの分離)、配置ロジック、キャリアパス設計を含む、経営全体の設計変更になる。
経営者の問いはここに立つ。自社の若手を、進化の山の育成OSで育てているか。
世界の警告(足場の消失)を、リスクではなく信号として読み直してみる。足場の消失は、危機であると同時に、育成のOSを切り替える信号でもある。効率の山の育成OSが機能しなくなるなら、進化の山の育成OSへ切り替えるしかない。
「担い手の消失」は、単なる警告ではない。経営者の意思決定の問題である。効率の山の育成OSを維持し続けるのか。進化の山の育成OSへ切り替えるのか。この判断は、若手個人の努力や、人事部門の工夫で決まる範囲を超えている。経営が意思を持って決める領域にある。
AX for Revenueの担い手階層 ── 収益進化家 / AXアーキテクト / FDE / 収益進化FDE
進化の山の育成OSの先に、AX for Revenueは4層の担い手階層を置いている。
| 階層 | 位置付け |
|---|---|
| revenue-evolutionist | AIと共に事業構造を再設計する経営者・事業責任者。書籍『AI収益進化論』の主読者 |
| AXアーキテクト | 事業実装の現場でAX Areaの毛細血管を設計する変革人材。BA能力×AI能力の掛け算 |
| Forward Deployed Expert | 事業実装の現場で力を発揮する関与形態。AlphaDriveが日本で確立する概念 |
| revenue-evolution-fde | AX for Revenueの実装を伴走する専門的な関与形態 |
各層は「上位が偉い」の階層ではない。担う役割が異なる補完的な関係である。収益進化家が経営の意志を持ち、AXアーキテクトが事業の毛細血管を設計し、FDEが事業実装の現場で力を発揮する。それぞれが別の役割で完結する。
ここで絶対に外してはならない位置付けがある。Forward Deployed Engineerへの敬意である。
Forward Deployed Engineerは、Palantir Technologiesが2000年代に確立し、Anthropic・OpenAIをはじめとする世界の先端AI企業が継承してきた、技術実装の現場における中核的関与形態である。顧客企業の現場でコードを書きながら課題をプロダクトに変換するエンジニア像は、AI時代の実装の一つの到達点だ。この歴史と実践に、私は深い敬意を持つ。
AlphaDriveはこのForward Deployed Engineerへの敬意の上に立ち、その隣に「別の地平」としてForward Deployed Expertを立てる。技術実装の現場で力を発揮するForward Deployed Engineerと、事業実装の現場で力を発揮するForward Deployed Expertは、対立ではなく、それぞれが別の現場で力を発揮する異なる関与形態である。Expertがコードを書くこともある。Engineerが事業設計に踏み込むこともある。優劣ではなく、地平の違いとして整理する。この整理はseparate-horizon-frameで詳しく扱う。
②AIを使いこなす人間の担い手は、この4層階層の中で育つ。初期の担い手候補は、5レンズで発見する(pi-five-lenses-complementary-team)。3タイプの掛け合わせで補完チームを組む(complementarity-three-transformation-types)。そして、現場への曝露と逸脱の許可の中で、担い手として育つ(本記事)。担い手階層の中で、収益進化家→AXアーキテクト→FDE→収益進化FDEの道筋を、それぞれの現場で歩んでいく。
よくある質問
Q1. 若手を意図的に「非効率な業務」に配置すると、生産性が下がりませんか。
短期の生産性指標だけを見れば、下がるように見えることがあります。ただし、進化の山の育成OSは、短期の効率と長期の担い手育成のトレードオフを意識的に設計する営みです。効率化AIで生まれた余力を、若手の現場曝露と逸脱の余白へ意図的に振り向ける。この配分そのものが経営判断です。丁寧さや念のための作業に吸収させるか、担い手の育成に投じるか。書籍『AI収益進化論』のコラム②「並走戦術」も、この配分の話に接続します。
Q2. 「現場への曝露」は、リモートワーク時代にどう設計しますか。
物理的な現場だけがFieldの源ではありません。顧客との直接対話、営業商談への同席、CS対応の一次接触、ユーザーインタビューの実施。これらは形式を問わずFieldの曝露機会になります。重要なのは、整えられた情報(ダッシュボード・要約・レポート)を受け取るだけの位置に若手を置かないことです。一次情報に触れる位置に、意識的に配置する。リモートかオンサイトかは、設計の変数の一つに過ぎません。
Q3. 「逸脱の許可」と「業務規律の維持」は、どう両立させますか。
両立の鍵は、逸脱を許す領域と、規律を守る領域を、経営が明示的に分けることです。安全・法令・品質保証など、逸脱してはならない領域は明確に規定する。同時に、発想・提案・仮説の領域では、常識からの逸脱を積極的に扱う。CULTURE7のUnconventionality因子と、Truthfulness因子(誠実・公平)は対立しません。両者を対立軸ではなく別軸として、組織風土を多軸で設計する。全社一律の「自由」でも「規律」でもなく、領域ごとの設計が要ります。
Q4. 担い手階層(収益進化家→AXアーキテクト→FDE→収益進化FDE)は、既存の職位体系とどう整合しますか。
担い手階層は、役職や職位の体系ではなく、担う役割の類型です。既存の職位(部長・課長・主任・担当)とは独立に、この役割がどこに配置されるかを見立てます。収益進化家が事業部長を兼ねることも、AXアーキテクトが係長職に位置することもあり得ます。役職と役割を分けて考えることが、進化の山の育成OSの前提になります。
Q5. 中堅・シニア層の育成にも、同じ処方箋が適用できますか。
原理は同じです。中堅・シニア層も、繰り返し業務のみで過ごしていれば、PIは新たに育ちません。現場への曝露と逸脱の許可という育成条件は、年齢や職位を問わず作用します。むしろ中堅・シニア層は、過去に蓄積したFieldを持っている可能性が高い。それを言語化し、AIに注ぎ込む機会を組織として作れば、担い手として力を発揮できます。若手だけの問題ではなく、全世代の育成OSの切り替えとして考える。
②AIを使いこなす人間の担い手は、放っておくと育たない。若手の足場(scaffolding)が消える時代に、繰り返し業務が担ってきた育成機能は、意識的に別のかたちで再設計しなければ復元できない。
Fieldは現場への曝露から、Crazyは逸脱の許可から育つ。この原理を踏まえた育成のOSへ、効率の山から進化の山へ、経営が切り替える。効率の山の育成OS(OJT・スキルマップ・階層昇進)は無駄ではなかった。進化の山の育成OSの、確かなインフラだった。
そのインフラの上に、次の育成OSを、経営の意思で立てる。AIは効率化から、収益の創造へ。その転換を担う人間は、経営が育てる意思を持って初めて、生まれてくる。
出典
- Sequoia Capital「From Hierarchy to Intelligence」(2026)https://sequoiacap.com/article/from-hierarchy-to-intelligence/
- McKinsey & Company / People & Organizational Performance Practice「The agentic organization: Contours of the next paradigm for the AI era」(2025)https://www.mckinsey.com/capabilities/people-and-organizational-performance/our-insights/the-agentic-organization-contours-of-the-next-paradigm-for-the-ai-era#/
- Harvard Business Review / Boston Consulting Group(BCG Henderson Institute)「Research: Why You Shouldn't Treat AI Agents Like Employees」(2026)https://hbr.org/2026/05/research-why-you-shouldnt-treat-ai-agents-like-employees
- McKinsey & Company / People & Organizational Performance Practice「Rethinking early-career talent in the agentic organization」(2026)https://www.mckinsey.com/capabilities/people-and-organizational-performance/our-insights/the-organization-blog/rethinking-early-career-talent-in-the-agentic-organization
- IMD Business School「2026 AI trends: What leaders need to know to stay competitive」(2025)https://www.imd.org/ibyimd/artificial-intelligence/2026-ai-trends-what-leaders-need-to-know-to-stay-competitive/
- 株式会社Ambitions(AlphaDrive 100%子会社)「AI収益進化論──完成品製造コストゼロ時代の収益創造」(2026)https://axfr.ai/book
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